[08測-ポ-29] 認知負荷と視覚条件が不安定板上での姿勢制御に及ぼす影響の検討
つまずきやスリップによる姿勢の乱れは、日常生活の中でしばしば起こりうる問題である。姿勢の安定性は視覚や体性感覚、前庭器官からの感覚情報に依存している。また、日常生活において、姿勢制御は会話や思考といった認知負荷と相互に影響し合いながら行われている。これまでの研究では、認知負荷が静的姿勢制御に及ぼす影響について議論されており、認知課題の遂行が重心動揺を減少させることが報告されている。これは、注意の焦点が姿勢制御から認知課題へと移行することによるものと考えられている。しかし、つまずきやスリップなどの外乱に対する姿勢制御において認知負荷がどのような影響を及ぼすのかは明らかにされていない。本研究では認知負荷が増加するにつれて、外乱に対する姿勢制御能力が向上するという仮説を検証し、同時に姿勢安定化に重要な視覚情報の変化が姿勢制御能力に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。健常な若年者を対象に、ディジョックボード・プラスを用いて不安定板上での立位姿勢制御能力を評価した。測定時間は20秒で、視覚条件には開眼(指標あり)、開眼(指標無し)、閉眼の3条件を設定した。また、認知負荷条件には姿勢に直接影響を及ぼすと考えられる発声や肢体運動を必要としない数字記憶テストを採用した。課題レベルは記憶する数字の桁数を変化させることによって、4つの条件を設定した。対象者が記憶できる最大の数字桁数を難課題、難課題と易課題の中間の桁数を中課題、難課題の半分の桁数を易課題、何も行わない無課題の4条件とした。評価変数は全方向安定指数、全方向平均変位、全方向角度変動域、総角度変動指数などとした。本研究の成果はつまずきやスリップによって引き起こされる転倒の予防に向けた一助となることが期待される。