60th Annual Meeting in Autumn

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医科歯科連携シンポジウム

医科歯科連携シンポジウム4 糖尿病/慢性腎疾患

Sun. Dec 17, 2017 10:30 AM - 12:00 PM A会場 (メインホール)

座長:和泉 雄一(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 歯周病学分野)

[CS4-4] 腎臓病と歯周病の関連

永田 俊彦 (徳島大学名誉教授)

研修コード:2504

略歴
1978年 九州大学歯学部卒業
1979年 徳島大学歯学部附属病院助手(第二保存科)
1986年 徳島大学歯学部附属病院講師(第二保存科)
1988年 カナダ・トロント大学歯学部客員研究員:2年間
1995年 徳島大学歯学部教授(歯科保存学第二講座)
2004年 徳島大学大学院教授(歯周歯内治療学分野)
 〈2004年 徳島大学学長補佐(国際関係担当):3年間〉
 〈2007年 徳島大学歯学部長:2年間〉
 〈2013年 日本歯周病学会理事長:2年間〉
 〈2016年 徳島大学理事・副学長(研究・国際担当):1年間〉
2017年 徳島大学名誉教授
腎臓病患者の増加に伴って,歯科医療現場でも当該患者が増加しているものと推察される。歯科医師が腎臓病を意識するのは,1)糸球体腎炎や腎硬化症など原発の腎臓病,2)糖尿病性腎症,3)高血圧症を伴う腎臓病の場合であろう。歯科医師は,これらの患者の全身状態を把握するだけでなく,降圧薬服用患者では歯肉増殖症の発症リスクを考える必要がある。さらに,上記の患者のうち病状が進行し,4)慢性腎臓病(CKD)と診断され重症度の高い患者,5)人工透析に移行した患者,6)腎移植を行った患者の場合では,医科歯科連携体制を構築し,歯科診療の進め方に一層の配慮が必要となる。また,腎臓移植患者では免疫抑制薬服用による歯肉増殖症の発症も看過できない。
歯周医学に関する現在までの多くの研究成果から,歯周病と糖尿病の相互の関連や,降圧薬や免疫抑制薬と歯肉増殖症発現の関連については,概ね高いエビデンスが得られているが,慢性腎臓病(CKD)と歯周病の関連については,十分にデータが蓄積されていないこともあり,さらなる臨床疫学研究が求められている。
このような状況の中で,日本歯周病学会では,2016年に「歯周病と全身の健康」と題したガイドラインが作成され,その中で小生は「歯周病と腎臓病」を担当した。2つのクリニカルクエスチョン(CQ),CQ1「歯周病は慢性腎臓病(CKD)と関連があるか?」およびCQ2「歯周治療によって慢性腎臓病(CKD)は改善するか?」を設定し,両疾患の関連について検証した。
CQ1「歯周病は慢性腎臓病(CKD)と関連があるか?」に関して,歯周病とCKDの関連性を調べた臨床縦断研究は2005年のSaremiら( Diabetes Care)の糖尿病患者を対象にした調査が最初の報告であり,その歴史は浅い。その後の研究では,総じて両疾患の間に病態の上で正の関連を認める報告が多いことから,両疾患の関連性を肯定的に捉えるのは妥当と判断され,同様のメタ解析論文も発表されている(エビデンスレベル3a)。
CQ2「歯周治療によって慢性腎臓病(CKD)は改善するか?」に関しては,CQ1の内容ほど情報が多くないため,エビデンスレベルは低いが,積極的な歯周治療が血管内皮機能を改善させること(Tonetti et al, N Engl J Med, 2007)を考慮すれば,歯周治療による血管内皮機能の改善が結果的に腎機能の改善に貢献できると考えられる。実際,CKD患者に対する歯周治療によってeGFR値やCRP値が改善したという臨床観察研究結果が複数報告されている(エビデンスレベル3b)。
CKDと歯周病の双方向の関連について想定される病態機序については,CKDに認められる貧血や骨代謝異常に起因する免疫力の低下や骨量減少が歯周病増悪の一因となり,一方,全身に飛び火した歯周病由来の各種炎症因子が血管内皮細胞の機能障害を引き起こし,高血圧症や動脈硬化を進行させた結果,腎機能に悪影響を及ぼす可能性が考えられる。今後,さらなる研究が展開され,その成果が実際の歯科医療現場に生かされることが期待される。