60th Annual Meeting in Autumn

Presentation information

シンポジウム

シンポジウムIII 歯周炎の最新分子生物学

Sat. Dec 16, 2017 2:40 PM - 4:10 PM B会場 (Room A)

座長:原 宣興(長崎大学大学院・医歯薬学総合研究科・歯周病学分野)

[SY3-3] 歯周炎における骨吸収の制御にむけて

鵜飼 孝 (長崎大学病院 歯周病治療室)

研修コード:2504

略歴
1992年  長崎大学歯学部卒業
1996年  長崎大学大学院歯学研究科修了
1996年  長崎大学歯学部付属病院医員(第二保存科)
1997年  長崎大学歯学部助手(歯科保存学第二講座)
2004〜2006年 米国ボストン大学Postdoctoral Fellow
2006年  長崎大学大学院医歯薬学総合研究科助教(歯周病学分野)
2010年  長崎大学病院講師(歯周病治療室)
日本歯周病学会学術賞受賞,日本歯周病学会教育賞受賞
日本歯周病学会専門医・指導医
日本歯科保存学会専門医・指導医
歯周炎では細菌感染やlipopolysaccaride(LPS)に対する歯周組織の炎症反応の結果として,歯槽骨吸収が引き起こされると考えられている。骨吸収は単球/マクロファージ系細胞より分化する破骨細胞により誘導されるため,破骨細胞の分化制御は効果的な骨吸収抑制に重要である。破骨細胞分化誘導因子(receptor activator of NFκB ligand: RANKL)やそのデコイレセプターであるosteoprotegerin(OPG)が同定され,破骨細胞の形成や活性化メカニズムの解明が急速に進んできた。また破骨細胞は形成促進系のサイトカインであるtumor necrosis factorα(TNFα),抑制系のサイトカインであるinterferonγ(IFNγ)やinterleukin-4(IL-4)などによっても調整されている。
TNFαはLPS刺激による骨吸収において,中心的な役割を果たしている因子の一つであることが多くの研究で示されている。また我々は歯周病原細菌の一つであるPorphyromonas gingivalis刺激による破骨細胞形成促進にも,TNFαが重要な働きをしていることを報告している。そのため歯周炎による骨吸収の効果的な抑制には,TNFαによる破骨細胞形成促進を抑制することが有効ではないかと考えられる。歯根膜細胞はRANKLを発現していることが確認されているので,歯根膜にはRANKL刺激を受けた破骨細胞前駆細胞が存在していると考えられる。破骨細胞前駆細胞をRANKLと同時にTNFαで刺激をした場合と比較して,それのみでは破骨細胞を形成しない程度の低濃度のRANKL刺激をあらかじめ与えた破骨細胞前駆細胞にTNFα刺激を加えた方が,破骨細胞形成が促進された。しかしOPG,IFNγやIL-4などの破骨細胞形成抑制系のサイトカインでは,この破骨細胞形成の抑制は困難であった。
緑茶などに含まれるポリフェノールの一つであるカテキンは幅広い生物活性を有しており,骨吸収抑制にも関与することが報告されている。我々もLPS注入によるマウス炎症性骨吸収やLPSの歯肉溝への頻回投与によるラット歯周炎モデルにおいて,茶カテキン抽出物が骨吸収を抑制することを示してきた。また,緑茶カテキンの主要成分であるエピガロカテキンガレート(EGCG)は,in vitroでRANKL刺激によるマウス骨髄マクロファージからの破骨細胞形成を抑制した。さらにEGCGは破骨細胞形成抑制系のサイトカインでは抑制できなかった,低濃度のRANKL刺激を与えた破骨細胞前駆細胞からのTNFαによる破骨細胞形成も効果的に抑制した。これは歯周炎のようなTNFαが関与すると考えられる炎症性骨吸収において,EGCGが効果的な骨吸収抑制剤となり得る可能性を示していると考えられる。本講演ではこれまでに得られた研究成果を中心に歯槽骨破壊のメカニズムと歯槽骨吸収抑制の可能性について考察してみたい。