日本歯周病学会60周年記念京都大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウムIII 歯周炎の最新分子生物学

2017年12月16日(土) 14:40 〜 16:10 B会場 (Room A)

座長:原 宣興(長崎大学大学院・医歯薬学総合研究科・歯周病学分野)

[SY3-4] 歯周炎関連線維芽細胞の発見と歯周炎診断・治療のパラダイムシフト

大島 光宏 (奥羽大学 薬学部)

研修コード:2504

略歴
東京都立九段高校卒(1976年,高28回)
日本大学歯学部卒(1982年,学部30回)
東京医科歯科大学大学院歯学研究科修了(1987年)歯学博士
日本大学歯学部生化学教室 助手(1987年)
日本大学歯学部生化学教室 講師(2006年)
奥羽大学薬学部 教授(2010年)
カロリンスカ研究所がんセンター短期留学(2004年,2006年)
歯周病は世界で最も罹患率の高い病気とされ,歯磨きによって治癒する歯肉炎と,歯を失う歯周炎(歯槽膿漏)とに大別される。有史以来1960年代前半まで長い間原因が不明とされてきた歯周炎であるが,1965年にLöeらにより細菌性プラークが“歯肉炎”の原因だと証明されたことをきっかけに,なぜか“歯周炎”の原因も細菌であるというパラダイムが構築された。しかし,“歯周炎細菌原因説”は,① 歯周病菌は口腔常在菌である,② 歯磨きの有無で重度歯周炎罹患率は変わらない,③ PMTCでは抜歯数を減らせない,④ ワクチンができない,⑤ 加齢,糖尿病,肥満,アルコール依存などの非感染性疾患(要因)と相関する,など多くの矛盾を抱えている。私どもは,歯周炎は腫瘍と同じ“創傷治癒”反応が原因ではないかと考えた。すなわち,歯は生体表面の上皮の連続性を破って露出している唯一の硬組織であり,歯の周囲を生体が創傷と認識してしまうことで歯根を上皮で覆う反応が起き,皮膚の傷が治癒するとかさぶたが剥がれ落ちるのと同様に歯が抜けるのではないかと考えた1)
歯周炎研究には適切な動物モデルが存在しないため,日本大学歯学部生化学の山口らは,細胞培養法による「生体外歯周炎モデル」を確立した2)。歯周炎罹患歯肉由来の線維芽細胞をコラーゲンゲル内で三次元培養すると,わずか数日後にコラーゲンが極度に分解されたため,この細胞を“歯周炎関連線維芽細胞(PAFs)”と名付け,歯周炎の原因細胞ではないかと推測した。次に歯周炎分子標的治療薬の候補を探すべく,このモデルを用いてトランスクリプトーム解析を行ったところ,FLT-1(VEGFR1)が重要な原因候補遺伝子であることを見出だし,その遺伝子産物が新たな治療標的となることを提案した3)。さらに東京大学医学部呼吸器内科の堀江らは,理化学研究所FANTOM5プロジェクト4)のCAGEデータ解析により,PAFsでは石灰化のマスター遺伝子であるRunx2の転写開始点に明らかな相違があることを見出だした5)。すなわち,PAFsが通常の歯肉線維芽細胞とは明らかに異なる細胞であることを証明した。
また,演者の発明品ペリオスクリーン「サンスター」は,一部の歯肉炎患者も陽性となる。このため,歯周炎の進行に強く関与が疑われる肝細胞増殖因子(HGF)を唾液(洗口吐出液)中に検出することで歯周炎患者だけをスクリーニングする試験紙の作製を目指し,東京医科歯科大学歯周病学分野の和泉・青木らのメンバーと実用化に向けた取り組みを行っている(投稿準備中)。さらに東京大学医学部呼吸器内科の齋藤らは,東京医科歯科大学歯周病外来で採取した歯肉溝滲出液(GCF)中のmiRNA発現パターンを調べ,全く新しいタイプの部位別歯周炎診断法が確立できることを明らかにした6)
これらの研究を基に,PAFsをターゲットとした歯周炎の分子標的治療や遺伝子治療の前臨床試験を行う準備を進めている。また,すでにPAFsを作製する方法も見出しており,100年後には歯周炎が過去の病気になることを夢見ている。
文献
1)大島光宏,山口洋子,日薬理誌(総説)141, 314-320, 2013
2)Ohshima M, et al., J Dent Res 89, 1315-1321, 2010
3)Ohshima M, et al., J Clin Periodontol 43, 128-137, 2016
4)Forrest AR, et al., Nature 507, 462-470, 2014
5)Horie M, et al., Sci Rep 6, 33666, 2016
6)Saito A, et al., FEBS Open Bio 7, 981-994, 2017