日本歯周病学会60周年記念京都大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウムIV 超高齢社会を生き抜く歯周病予防・治療の考え方

2017年12月17日(日) 08:20 〜 10:20 A会場 (メインホール)

座長:吉成 伸夫(松本歯科大学歯科保存学講座(歯周))

[SY4-1] フレイル,オーラルフレイルの疫学

渡邊 裕 (地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所)

研修コード:2203

略歴
1994年 北海道大学歯学部卒業,東京都老人医療センター歯科口腔外科医員
1995年 東京歯科大学口腔外科学第一講座入局
1997年 東京歯科大学オーラルメディシン講座助手
  (東京歯科大学市川総合病院歯科・口腔外科)
2001年 ドイツ フィリップス・マールブルグ大学歯学部(~2002年)
  (長寿科学振興財団海外派遣)
2007年 東京歯科大学オーラルメディシン・口腔外科学講座講師
  (東京歯科大学市川総合病院歯科・口腔外科)
2012年 国立長寿医療研究センター 口腔疾患研究部口腔感染制御研究室長
2016年 東京都健康長寿医療センター 研究所 社会科学系専門副部長
高齢者において健常な状態から要介護状態に突然移行することは,急性疾患が原因の場合よくみられるが,医療制度が整備された日本においては,慢性疾患や加齢が原因で要介護状態に徐々に移行する高齢者が多くなってきている。このような場合はフレイルという中間的,可逆的な段階を経て,徐々に要介護状態に陥ると考えられている。
フレイルは,高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し,生活機能障害,要介護状態,死亡などの転帰に陥りやすい状態で,筋力の低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず,認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題,独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念とされている。
日本においてフレイルが注目されるようになってきたのは,介護予防の対象になるもっと前から,地域の高齢者に対して適切な介入を行ない,自立した生活を支援するという地域包括ケアシステムが推進されることになったことも関連している。
一方,代表的な口の健康指標である残存歯数は,近年,高齢者において顕著に増加してきており,平成28年の歯科疾患実態調査では8020達成者は推計51.2%となった。しかし,残存歯数が増加し咬合が維持されていても,唇や舌の動き,咀嚼機能や咬合力といった口腔機能が低下した高齢者が増加してきていているとの報告もある。このような口腔機能の低下は「オーラルフレイル」として注目され,滑舌の低下,食べこぼし,わずかなむせ,咬めない食品が増えるなど,ささいな口腔機能の低下から始まるとされ,これら様々な口の衰えはフレイルと強く関連していることも明らかになってきている。またオーラルフレイルは,身体のフレイル,サルコペニア,要介護状態,死亡のすべての発生に有意に関連していることも明らかになってきている。つまり,これらの結果はオーラルフレイルを予防,改善することは,要介護状態を予防し,地域で望む暮らしを続けることの支援に繋がる可能性を示唆している。
高齢者が慣れ親しんだ地域でいつまでも健康で望む暮らしを続けるためには,オーラルフレイルや口腔機能の低下に気づき,食事を通してこれを予防,改善できるよう支援していく必要がある。このような視点を多くの歯科医療関係者とその関連職種が共有し,またささいな“口の衰え”が口だけの問題でなく,全身の衰えと大きく関わっていること,身体,精神・心理,社会といった多面性を持つフレイルに対して,口腔機能の維持改善だけでなく食事や栄養など包括的な支援が重要であることを,地域において一つ一つ事例を積み重ねながら,検証し啓発していく必要があると考える。今後オーラルフレイルに関する啓発が広がり,高齢者ならびにその家族と医療や介護にかかわる多くの職種の理解と連携が構築されていくことを期待したい。