日本歯周病学会60周年記念京都大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウムIV 超高齢社会を生き抜く歯周病予防・治療の考え方

2017年12月17日(日) 08:20 〜 10:20 A会場 (メインホール)

座長:吉成 伸夫(松本歯科大学歯科保存学講座(歯周))

[SY4-3] 歯周病とアルツハイマー病

松下 健二 (国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)

研修コード:2504

略歴
1989年 鹿児島大学歯学部卒業
1989年 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科博士課程入学
1989年 国立予防衛生研究所歯科衛生部・研究生(〜1991年5月)
1993年 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科博士課程修了
1993年 鹿児島大学歯学部歯科保存学講座・助手
2002年 米国 Johns Hopkins 大学医学部循環器内科・研究員
2005年 国立長寿医療研究センター研究所口腔疾患研究部・部長
わが国では,高齢者の人口増大に伴い,認知症患者数の急速な増加がみられる。厚生労働省の調査結果では,認知症に罹患した高齢者の数は462万人にも達している(2012年)と推計されている。これは,65歳以上人口の15%にものぼる。加えて,2025年には700万人を超え65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症に罹患すると考えられている。認知症の原因は様々であるが,最も頻度の高いアルツハイマー病(Alzheimer’s disease; AD)をはじめ,その病因は十分に解明されておらず,治療法も確立されていない。このような現状のなかで,制御可能な危険因子や防御因子を明らかにし,その情報を有効に活用して認知症を予防できれば,超高齢社会を迎えた我が国の医療費負担を大幅に軽減できる。多くのコホート研究の結果,高血圧症や糖尿病といった生活習慣病がアルツハイマー病のリスクを高めることが明らかになってきたが,歯周病もその危険因子の一つであるとする疫学研究が散見される。末梢臓器の慢性炎症はアルツハイマー病の分子病態を増悪する可能性があるが,そのような炎症性疾患の一つに歯周病がある。アルツハイマー病で死亡した患者の剖検脳組織において,歯周病関連細菌の一種であるPorphyromonas gingivalisが高頻度に検出されたことやApoE KOマウスを用いた研究結果から,P. gingivalisが脳内に移行しやすい性質を有し,選択的に脳実質へ移行できる可能性を示唆する報告もある。このようなことから,我々は, P. gingivalisによるアルツハイマー病増悪の可能性をモデルマウスで解析した。その結果,P. gingivalisの口腔内投与により,アルツハイマー病モデルマウスの認知機能低下や脳内のアミロイドβペプチドの沈着亢進がみられた。さらに,脳内の炎症性サイトカイン濃度の上昇とともに細菌内毒素(LPS)の増加が認められた。一方,野生型マウスに同菌を接種した場合にも,認知機能の低下はみられたが,脳内のアミロイドβペプチドの沈着は認められなかった。脳内に移行した炎症性サイトカインやLPSは,脳内の免疫細胞であるミクログリアを活性化し脳内炎症を惹起する可能性があるため,それが同モデルにおけるアルツハイマー病病態の増悪の一機序と考えている。また,歯周病はアルツハイマー病の発症を促進するのではなく,その病態を増悪する因子である可能性がある。
アルツハイマー病の発症は,70代後半より急激に増加する。一方,その原因分子と考えられているAβの蓄積は50代から始まっている。この時期にしっかりと歯周病のケアをし,口腔細菌をコントロールすることでアルツハイマー病の発症や増悪をコントロールできるかもしれない。歯周病を予防し口腔の健康を維持することは,高齢化が進む現代社会において,今後益々その重要性を増してゆくことに違いない。