60th Annual Meeting in Autumn

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シンポジウム

シンポジウムVI 歯周組織再生治療の多様な可能性を探る!

Sun. Dec 17, 2017 9:40 AM - 12:00 PM C会場 (アネックスホール)

座長:五味 一博(鶴見大学歯学部歯周病学講座)

[SY6-2] 歯周組織再生療法が変える歯科の未来

村上 伸也 (大阪大学大学院歯学研究科 口腔分子免疫制御学講座 歯周病分子病態学)

研修コード:2504

略歴
1988年 大阪大学大学院 歯学研究科 修了
1988年 米国国立衛生研究所(NIH)研究員
1990年 大阪大学・助手 歯学部
1992年 大阪大学・講師 歯学部附属病院
2000年 大阪大学・助教授 大学院歯学研究科
2002年 大阪大学・教授 大学院歯学研究科
2008年 大阪大学歯学部附属病院 副病院長
2016年 大阪大学歯学部附属病院 病院長
2009年 AAP R. Earl Robinson Regeneration Award受賞
2013年 IADR Distinguished Scientist Award受賞
歯周病の進行により失われた歯周組織を元通りに再生させることは,歯周治療学の分野における大きな目標の一つである。多くの研究により,歯根膜中にはいわゆる「歯周組織幹細胞」が存在することが明らかになり,さらにはこの組織幹細胞を至適に活性化する臨床上の工夫を施すことにより,失われた歯周組織の再生を誘導することが臨床的に可能であることが明らかにされた。1980年代にはGTR法が,1990年代にはエナメルマトリクスタンパクが臨床応用されるようになり,医科領域に先駆けて歯周治療学の分野においては,「再生医療」が臨床の場で実践されてきた。このことは,材料学への依存度が大きかった歯科医療が,生物学的根拠に基づく医療へと踏み出す大きな転換点のひとつになったのではないだろうか。歯周組織再生医学研究は,日本歯周病学会においても大きな研究テーマとして長年取り扱われ,歯周組織幹細胞に関する理解を深めると共に,硬組織形成細胞への分化過程の機構解明,それら情報に基づく効果的な同幹細胞の活性法の開発,さらには各種組織幹細胞や多能性幹細胞の移植による再生誘導法の検討など,多方面の研究を展開してきた。その成果のひとつとして,多くの日本歯周病学会会員の協力を得て,世界初の歯周組織再生誘導剤(リグロス®)が,世界に先駆け本邦にて製造販売承認を取得することとなった。また,細胞移植療法に関しても,日本歯周病学会は世界を先導する成果を挙げており,その治療法のいくつかは,現在臨床研究においてその有効性・安全性が検証されている。
これらの治療法は,歯周組織再生療法に限定されることなく,今後多方面の検証を経て,他領域への適応拡大が期待される。口腔領域において組織の治癒促進や再生が期待される疾患は,多くの場合,硬組織と軟組織のバランスの取れた再構築が求められるため,歯周組織再生医学の分野で構築された成果が,適応拡大に向けて大きな役割を果たすものと期待される。
今回の講演では,0.3%FGF-2(塩基性線維芽細胞増殖因子)を有効成分とするリグロス®の開発経緯,薬理作用,適応症と限界を概説させていただく。さらに,現在我々の診療室にて臨床研究が遂行されている脂肪組織由来多系統前駆細胞(Adipose tissue-Derived Multi-lineage Progenitor Cells: ADMPC)を用いた,新規歯周組織再生療法開発の現状を報告させていただく。そして,今後これらの治療法がどのように改良・発展されていく可能性があるのかについて考察したいと考えている。さらに,これらの成果を事例として,新規歯周組織再生療法開発のインパクトが,今後歯科医療をどのように変えていくのか,先生方と共にその近未来を俯瞰したいと考えている。