第51回日本理学療法学術大会

Presentation information

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)
基礎研究から考える痛みの治療戦略

Sun. May 29, 2016 10:20 AM - 11:40 AM 第1会場 (札幌コンベンションセンター 1階 大ホールA)

司会:河上敬介(大分大学福祉健康科学部理学療法コース)

[KS1020-1] 基礎研究の成果から急性痛に対する理学療法を再考する

中野治郎 (長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻)

組織損傷などが発端となる急性痛は生体の警告信号としての意義があるが,過剰な痛みが続くと中枢性感作が惹起され,慢性痛に発展する。また,痛みに伴う患部ならびに全身の不活動は慢性痛の発生リスクを高めるとされ,基礎研究の成果では不活動によって末梢からの感覚刺激入力が減弱・消失することで神経系の可塑的変化が惹起され,新たな痛みの発生につながることが明らかになっている。したがって,急性痛に対する理学療法の目的は,痛みを長引かないように努めるとともに,患部も含めた全身の活動性を保ち,慢性痛の発生を防ぐことにあり,具体的な治療戦略としては,痛みの軽減と傷害部位の治癒促進のための物理療法,不活動是正のための運動療法,患部に対する感覚刺激入力の促通などが考えられる。
寒冷療法の適用によって痛覚閾値が上昇することはよく知られているが,最近は傷害部位の治癒促進効果も明らかになりつつあり,特に人工関節置換術後のような広範囲の炎症に対して有効である。なお,腱鞘炎などの局所の炎症には低出力レーザーや超音波が利用でき,両者とも抗炎症効果が期待できる。一方,全身の運動は一般に筋力低下などの不活動に起因した運動機能障害の予防を目的に行われるが,最近の研究では運動誘発性疼痛抑制効果が注目されており,慢性痛への予防対策としても不可欠な治療戦略といえる。また,炎症が顕著な場合でも極力安静は避ける必要があり,低強度の運動を実施することで痛みが軽減することも明らかになっている。そして,患部がギプス等で固定されていても感覚刺激入力を促すことは重要であり,このことによって神経系の可塑的変化を予防し,慢性痛の発生を抑える治療戦略も必要である。
以上,本講演では自験例も含めた基礎研究の成果に基づいて,急性痛に対する理学療法のあり方について再考することとする。