[O-DM-02-3] 糖尿病性ニューロパチーは横隔神経を障害する
Keywords:糖尿病性ニューロパチー, 呼吸, 運動耐容能
【はじめに,目的】
日常生活において,糖尿病患者が呼吸苦や循環器症状を訴えることはほとんど無い。しかし,糖尿病患者における努力性肺活量の減少や,呼吸筋の筋持久力低下などが報告されていることから,安静時には問題にならなくとも,運動時には身体活動に影響を及ぼしている可能性は高い。これまで,これらの呼吸障害は筋の代謝異常に起因すると考えられてきたが,近年,我々が糖尿病性ニューロパチー(以下,DPN)による運動ニューロン脱落を発見したことで,DPNによる運動ニューロンの障害を原因とする呼吸障害が生じている可能性が浮上した。なかでも横隔神経は,我々の提唱する,軸索が長く小型の運動ニューロンにDPNが生じやすいという条件に合致しており,DPNにより障害されている可能性が高いと考えられる。そこで今回,DPNによる横隔神経運動ニューロンの脱落が生じ,横隔膜に機能障害が生じるかを明らかにすべく,研究を行った。
【方法】
実験には,13週齢の雄性WistarラットにStreptzotocinを腹腔内投与し,1型糖尿病を発症させたSTZラットを糖尿病群,Wistarラットを対照群として用いた。12週間の飼育期間の後に,ハロタン吸入麻酔下で対象の腹部を切開し,露出した横隔膜に双極の針電極を刺入して,自発呼吸によって活動中の単一運動単位の活動電位を導出した。得られた活動電位をPowerLabにてAD変換し,LabChartを用いて活動電位の振幅(peak to peak)を解析した。
【結果】
糖尿病群と健常群の活動電位を比較したところ,健常群では約50μV~200μVの活動電位が観察されたのに対し,糖尿病群では約100μV~500μVの活動電位が観察され,糖尿病群の活動電位の最大値は,健常群の最大値に比べて約2.5倍大きかった。また,糖尿病群における活動電位の平均値は,対照群よりも有意に大きく,脱神経後の再神経支配筋に特徴的に観察される巨大運動単位電位の出現が観察された。
【結論】
以上の結果は,糖尿病群の横隔膜に,DPNによる除神経とその後の再神経支配が生じている可能性を強く示唆するものである。先行研究より,再神経支配筋では筋張力低下や疲労耐性の低下が生じることが知られていることから,糖尿病罹患による横隔膜の脱神経とその後の再神経支配は,糖尿病患者の換気能力を低下させ,運動耐容能の低下に関与している可能性が高いと推察される。糖尿病患者における運動耐容能の低下は,運動療法の実施が困難となるばかりか致死率の上昇まで引き起こすため,そのメカニズムの解明と治療法の開発は極めて重要な課題であるが,これまで,運動耐容能低下の原因は筋代謝異常にあると考えられ,呼吸・循環機能との関連性については研究がなされなかった。今後,更なる解析を加え,糖尿病性の呼吸器障害と運動耐容能との関係を明らかにしていきたい。
日常生活において,糖尿病患者が呼吸苦や循環器症状を訴えることはほとんど無い。しかし,糖尿病患者における努力性肺活量の減少や,呼吸筋の筋持久力低下などが報告されていることから,安静時には問題にならなくとも,運動時には身体活動に影響を及ぼしている可能性は高い。これまで,これらの呼吸障害は筋の代謝異常に起因すると考えられてきたが,近年,我々が糖尿病性ニューロパチー(以下,DPN)による運動ニューロン脱落を発見したことで,DPNによる運動ニューロンの障害を原因とする呼吸障害が生じている可能性が浮上した。なかでも横隔神経は,我々の提唱する,軸索が長く小型の運動ニューロンにDPNが生じやすいという条件に合致しており,DPNにより障害されている可能性が高いと考えられる。そこで今回,DPNによる横隔神経運動ニューロンの脱落が生じ,横隔膜に機能障害が生じるかを明らかにすべく,研究を行った。
【方法】
実験には,13週齢の雄性WistarラットにStreptzotocinを腹腔内投与し,1型糖尿病を発症させたSTZラットを糖尿病群,Wistarラットを対照群として用いた。12週間の飼育期間の後に,ハロタン吸入麻酔下で対象の腹部を切開し,露出した横隔膜に双極の針電極を刺入して,自発呼吸によって活動中の単一運動単位の活動電位を導出した。得られた活動電位をPowerLabにてAD変換し,LabChartを用いて活動電位の振幅(peak to peak)を解析した。
【結果】
糖尿病群と健常群の活動電位を比較したところ,健常群では約50μV~200μVの活動電位が観察されたのに対し,糖尿病群では約100μV~500μVの活動電位が観察され,糖尿病群の活動電位の最大値は,健常群の最大値に比べて約2.5倍大きかった。また,糖尿病群における活動電位の平均値は,対照群よりも有意に大きく,脱神経後の再神経支配筋に特徴的に観察される巨大運動単位電位の出現が観察された。
【結論】
以上の結果は,糖尿病群の横隔膜に,DPNによる除神経とその後の再神経支配が生じている可能性を強く示唆するものである。先行研究より,再神経支配筋では筋張力低下や疲労耐性の低下が生じることが知られていることから,糖尿病罹患による横隔膜の脱神経とその後の再神経支配は,糖尿病患者の換気能力を低下させ,運動耐容能の低下に関与している可能性が高いと推察される。糖尿病患者における運動耐容能の低下は,運動療法の実施が困難となるばかりか致死率の上昇まで引き起こすため,そのメカニズムの解明と治療法の開発は極めて重要な課題であるが,これまで,運動耐容能低下の原因は筋代謝異常にあると考えられ,呼吸・循環機能との関連性については研究がなされなかった。今後,更なる解析を加え,糖尿病性の呼吸器障害と運動耐容能との関係を明らかにしていきたい。