[O-KS-06-5] 脳卒中後疼痛の背景となる帯状皮質の活動上昇
サルモデルを対象にした機能的磁気共鳴画像(fMRI)による解析
Keywords:fMRI, 動物モデル, 慢性疼痛
【はじめに,目的】
脳卒中後疼痛は,特に視床に脳卒中が発症した数週間後に出現し,しばしば非侵害性の感覚刺激に対しても激しい痛みを感じるアロディニアを示す。痛みの他に,鬱や気分障害を併発し,これらは臨床上で大きな問題となることが多い。現在,この病態メカニズムの詳細は明らかになっていないが,脳卒中後の不適切な可塑性によって生じる脳活動異常が,原因と考えられている。そこで我々は,ヒトと相似した身体骨格と脳構造を持つサルを対象としたモデルを用いて,脳卒中後疼痛の背景となる脳活動の異常を特定することを目的とした。
【方法】
成体マカクサル3頭(体重:7.0-9.0kg)を用いた。脳卒中後疼痛の原因病巣の一つである視床後外側腹側核(VPL)の部位を,MRIと電気生理学的手法によって特定し,当該部位にコラゲナーゼtype IVを投与して脳出血を誘発させた。疼痛の出現は,von Frey式痛覚測定装置を用いた機械刺激と,サーモプレートを用いた温熱刺激を手指に与え,回避するまでの圧(g)と時間(s)をそれぞれ計測することでモニターした。損傷3か月後,2頭のサルを対象に,行動テストで有意な差が認められた温度刺激と機械刺激を用いて,脳内鎮痛作用がないプロポフォール持続投与下で,機能的磁気共鳴画像(fMRI)を施行した。
【結果】
T2-MRI画像およびNissl染色を用いた組織学的解析によって,視床VPLを中心とした限局的な損傷が確認された。非侵害性の温度刺激と機械刺激を用いた行動実験では,共に損傷から4週以降,損傷半球と対側手指の回避反応が損傷前と比べて有意に増加した。有意な回避行動を示した温度刺激と,コントロールとした37℃の刺激を損傷対側手指に与え,fMRIを施行した結果,損傷側の前部帯状皮質の活動が上昇していた(P<0.01)。また,機械刺激を手指に与えた時の脳活動でも,損傷前と比べ,損傷側の帯状皮質で上昇が見られた(P<0.01)。
【結論】
限局的な視床の損傷後,非侵害性刺激に対して回避行動がみられたことから,アロディニアを呈していたと考えられる。この背景となる脳活動の上昇は,疼痛認知や情動形成に深く関与するとされる帯状皮質で見られた。また,温度刺激および機械刺激によって活動が上昇する領域は,帯状皮質のそれぞれ前方部と後方部に分かれており,刺激の種類による活動領域の違いがあることが示唆された。現在,神経障害性疼痛に対して効果があるとされている反復経頭蓋磁気刺激法の有効刺激部位には,帯状皮質も含まれており,この領域の抑制が疼痛を軽減させるメカニズムの一つであると考えられる。
脳卒中後疼痛は,特に視床に脳卒中が発症した数週間後に出現し,しばしば非侵害性の感覚刺激に対しても激しい痛みを感じるアロディニアを示す。痛みの他に,鬱や気分障害を併発し,これらは臨床上で大きな問題となることが多い。現在,この病態メカニズムの詳細は明らかになっていないが,脳卒中後の不適切な可塑性によって生じる脳活動異常が,原因と考えられている。そこで我々は,ヒトと相似した身体骨格と脳構造を持つサルを対象としたモデルを用いて,脳卒中後疼痛の背景となる脳活動の異常を特定することを目的とした。
【方法】
成体マカクサル3頭(体重:7.0-9.0kg)を用いた。脳卒中後疼痛の原因病巣の一つである視床後外側腹側核(VPL)の部位を,MRIと電気生理学的手法によって特定し,当該部位にコラゲナーゼtype IVを投与して脳出血を誘発させた。疼痛の出現は,von Frey式痛覚測定装置を用いた機械刺激と,サーモプレートを用いた温熱刺激を手指に与え,回避するまでの圧(g)と時間(s)をそれぞれ計測することでモニターした。損傷3か月後,2頭のサルを対象に,行動テストで有意な差が認められた温度刺激と機械刺激を用いて,脳内鎮痛作用がないプロポフォール持続投与下で,機能的磁気共鳴画像(fMRI)を施行した。
【結果】
T2-MRI画像およびNissl染色を用いた組織学的解析によって,視床VPLを中心とした限局的な損傷が確認された。非侵害性の温度刺激と機械刺激を用いた行動実験では,共に損傷から4週以降,損傷半球と対側手指の回避反応が損傷前と比べて有意に増加した。有意な回避行動を示した温度刺激と,コントロールとした37℃の刺激を損傷対側手指に与え,fMRIを施行した結果,損傷側の前部帯状皮質の活動が上昇していた(P<0.01)。また,機械刺激を手指に与えた時の脳活動でも,損傷前と比べ,損傷側の帯状皮質で上昇が見られた(P<0.01)。
【結論】
限局的な視床の損傷後,非侵害性刺激に対して回避行動がみられたことから,アロディニアを呈していたと考えられる。この背景となる脳活動の上昇は,疼痛認知や情動形成に深く関与するとされる帯状皮質で見られた。また,温度刺激および機械刺激によって活動が上昇する領域は,帯状皮質のそれぞれ前方部と後方部に分かれており,刺激の種類による活動領域の違いがあることが示唆された。現在,神経障害性疼痛に対して効果があるとされている反復経頭蓋磁気刺激法の有効刺激部位には,帯状皮質も含まれており,この領域の抑制が疼痛を軽減させるメカニズムの一つであると考えられる。