第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題口述
(基礎)18

2016年5月28日(土) 13:40 〜 14:40 第7会場 (札幌コンベンションセンター 2階 204)

座長:中江秀幸(東北福祉大学 健康科学部 リハビリテーション学科 理学療法学専攻)

[O-KS-18-6] 転倒歴を有する高齢者の足圧中心軌跡の特徴

佐藤大道1,2, 岡田恭司2, 齊藤明2, 若狭正彦2, 柴田和幸2, 髙橋裕介2, 堀岡航2, 安田真理2, 大沢真志郎2 (1.JA秋田厚生連秋田厚生医療センター, 2.秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻リハビリテーション領域)

キーワード:高齢者, 転倒, 足圧中心軌跡

【はじめに,目的】

臨床上,転倒は高齢者が寝たきりとなる要因として大きな割合を占めており,私たち理学療法士の関心は高い。これまで転倒に関する研究・報告は多いものの,立位でのバランス能力や筋力との関連を示したものがほとんどで,実際に歩行の状態を検討していたものは少ないのが現状である。転倒は重心が支持基底面から外れることで生じるため,重心移動に関連する足圧中心軌跡(以下COP)の変化は転倒の原因を追究する一助になり得ると考えられる。そこで本研究の目的は転倒歴のある高齢者のCOPの特徴を明らかにすることである。

【方法】

本研究に同意と協力が得られた22名の高齢者を対象とし,直近1年間の転倒歴を聴取した。1年の間に転倒歴があったもの7名を転倒群(年齢78.1±4.5歳,BMI 24.0±3.1 kg/m2)とし,残りの15名をコントロール群(年齢78.7±4.2歳,BMI 23.0±2.7 kg/m2)として分類した。なお,両群ともに独歩が不能なもの,脊椎または下肢の手術歴があるものおよび著明な筋力低下があるものは本研究の対象から除外した。測定項目は,インソール型足圧分布計測システム(F-scanII,ニッタ社)を装着した状態で,10m歩行を快適速度で実施し,歩行パラメータとして歩行速度と歩幅,COPを表す指標として%Long(歩行時の足長に対するCOPの最大前後径)と%Trans(歩行時の足幅に対するCOPの最大左右径)を測定した。各測定項目にける転倒群とコントロール群の比較には対応のないt検定を用い,危険率は5%とした。

【結果】

歩行パラメータは歩行速度(0.78±0.2 m/s vs 0.86±0.3 m/s,p>0.05),歩幅(0.44±0.1 m vs 0.45±0.1m,p>0.05)で転倒群とコントロール群の間に有意な差は認められなかった。COPは%Long(49.9±7.3% vs 52.2±6.1%,p>0.05)で転倒群とコントロール群の間に有意な差は認められなかったが,%Trans(8.8±3.3% vs 13.2±3.5%,p=0.012)で転倒群がコントロール群に比べ有意に低値であった。

【結論】

歩行速度,歩幅および%Longは転倒群とコントロール群の間に有意な差は認められなかったが,%Transは転倒群がコントロール群に比べ有意に低値を示した。%Longおよび%TransはそれぞれCOPの前後方向と左右方向の動きを反映したものであることから,転倒しやすい高齢者では足圧中心の総移動距離が短くなっていると考えられる。特に前後方向へのCOPの移動ではなく,左右方向へのCOPの移動が有意に低い値を示したことから,転倒を予防するためには前額面上での重心移動が重要であると考えられる。今回の結果から,転倒しやすい高齢者では,歩行時に正常から逸脱したCOPパターンを示しており,そのことが転倒に関連すると考えられる。特にCOPの左右方向への移動が正常パターンから逸脱していたことから,転倒予防において矢状面上のバランスへの介入だけでなく,前額面上におけるバランスを意識した介入も取り入れていく必要があると考えられる。