[O-KS-20-4] 歩行の停止時における下肢関節トルクの性差に関する検討
Keywords:関節トルク, 性差, 骨盤
【はじめに,目的】
歩行練習の実施には疾患や症例の個体要因,生活背景などを考慮する。個体要因の性差として骨格に着目すると骨盤幅の差が挙げられる。これが歩行時の関節トルクの発揮に影響するのではないかと考えるが,その影響は検討されていない。また歩行は歩き始めや停止という局面が含まれるが,停止時に関する運動力学的検討は少ない。そこで本研究では,骨盤幅を指標に歩行の停止時における関節トルクの性差について検討した。
【方法】
対象は健常男性10名,女性10名(平均年齢21.7±0.9歳)とした。対象者には自然な速度での歩行と以下に記す歩行からの停止動作を3回ずつ行わせ,埋設した圧力盤(BP400600 AMTI社製)を用いて左下肢の地面反力を記録した。停止動作は3歩で停止する運動課題とし,まず歩行と同様に左足で圧力盤を踏ませて,次に右足を接地させ,その後左足を右足の側方に揃えて停止させた。両動作を2つの赤外線カメラを搭載した三次元動作解析装置UM-CAT(ユニメック社製)を2台用いて撮影し,その際,赤外線反射マーカーを両腸骨稜,大転子,膝関節外側裂隙,外果,第5中足骨頭の計10点に貼付した。地面反力と動作データは180Hzでサンプリングし,解析ソフトCAT Analysis MFC(ユニメック社製)を用いて関節トルクを算出した。その際,圧力盤に接地する直前の合成重心速度の差が秒速10cm未満となる歩行と停止動作の各1試技を用いた。立脚期の股関節屈曲・伸展,外転,内旋・外旋,膝関節屈曲・伸展,足関節背屈・底屈のピークトルクを分析対象とし,各対象者の身体質量で正規化した。また対象者の骨盤幅(腸骨稜頂点間)を肩幅(肩峰外側端間)で除した値も求めた。そして歩行と停止時の各ピークトルクの比較には対応のあるt検定を,男女の停止時の各ピークトルク,骨盤/肩幅比の比較には対応のないt検定を用いて検討した。また,性差を認めたピークトルクについてはピアソンの積率相関係数を用いて骨盤/肩幅比との関係を検討した。なお有意水準は5%とした。
【結果】
歩行と比較して停止時において股関節伸展・外旋,膝関節伸展,足関節底屈トルクが有意に増加した。そして,男性と比較して女性の停止時では股関節外旋トルク(女性:0.39±0.13 Nm/kg,男性:0.29±0.07 Nm/kg)が有意に高値を示し,足関節底屈トルク(女性:1.03±0.10Nm/kg,男性:1.13±0.09 Nm/kg)は有意に低値を示した。また骨盤/肩幅比(男性:0.68±0.04,女性:0.75±0.03)は女性において有意に高値を示し,股関節外旋トルクと有意な正の中等度相関(r=0.58)を認めた。
【結論】
停止時に女性では股関節外旋トルクの発揮がより重要であった。これは骨盤幅が広く股関節外旋のレバーアームが長くなるため,慣性による股関節内旋に対しての制動力を要したためと考えた。したがって,女性に多い変形性股関節症の症例においては,歩行の実用性向上のために股関節外旋に着目して筋力強化練習を行う重要性が示唆された。
歩行練習の実施には疾患や症例の個体要因,生活背景などを考慮する。個体要因の性差として骨格に着目すると骨盤幅の差が挙げられる。これが歩行時の関節トルクの発揮に影響するのではないかと考えるが,その影響は検討されていない。また歩行は歩き始めや停止という局面が含まれるが,停止時に関する運動力学的検討は少ない。そこで本研究では,骨盤幅を指標に歩行の停止時における関節トルクの性差について検討した。
【方法】
対象は健常男性10名,女性10名(平均年齢21.7±0.9歳)とした。対象者には自然な速度での歩行と以下に記す歩行からの停止動作を3回ずつ行わせ,埋設した圧力盤(BP400600 AMTI社製)を用いて左下肢の地面反力を記録した。停止動作は3歩で停止する運動課題とし,まず歩行と同様に左足で圧力盤を踏ませて,次に右足を接地させ,その後左足を右足の側方に揃えて停止させた。両動作を2つの赤外線カメラを搭載した三次元動作解析装置UM-CAT(ユニメック社製)を2台用いて撮影し,その際,赤外線反射マーカーを両腸骨稜,大転子,膝関節外側裂隙,外果,第5中足骨頭の計10点に貼付した。地面反力と動作データは180Hzでサンプリングし,解析ソフトCAT Analysis MFC(ユニメック社製)を用いて関節トルクを算出した。その際,圧力盤に接地する直前の合成重心速度の差が秒速10cm未満となる歩行と停止動作の各1試技を用いた。立脚期の股関節屈曲・伸展,外転,内旋・外旋,膝関節屈曲・伸展,足関節背屈・底屈のピークトルクを分析対象とし,各対象者の身体質量で正規化した。また対象者の骨盤幅(腸骨稜頂点間)を肩幅(肩峰外側端間)で除した値も求めた。そして歩行と停止時の各ピークトルクの比較には対応のあるt検定を,男女の停止時の各ピークトルク,骨盤/肩幅比の比較には対応のないt検定を用いて検討した。また,性差を認めたピークトルクについてはピアソンの積率相関係数を用いて骨盤/肩幅比との関係を検討した。なお有意水準は5%とした。
【結果】
歩行と比較して停止時において股関節伸展・外旋,膝関節伸展,足関節底屈トルクが有意に増加した。そして,男性と比較して女性の停止時では股関節外旋トルク(女性:0.39±0.13 Nm/kg,男性:0.29±0.07 Nm/kg)が有意に高値を示し,足関節底屈トルク(女性:1.03±0.10Nm/kg,男性:1.13±0.09 Nm/kg)は有意に低値を示した。また骨盤/肩幅比(男性:0.68±0.04,女性:0.75±0.03)は女性において有意に高値を示し,股関節外旋トルクと有意な正の中等度相関(r=0.58)を認めた。
【結論】
停止時に女性では股関節外旋トルクの発揮がより重要であった。これは骨盤幅が広く股関節外旋のレバーアームが長くなるため,慣性による股関節内旋に対しての制動力を要したためと考えた。したがって,女性に多い変形性股関節症の症例においては,歩行の実用性向上のために股関節外旋に着目して筋力強化練習を行う重要性が示唆された。