第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本運動器理学療法学会 一般演題口述
(運動器)10

Sat. May 28, 2016 1:40 PM - 2:40 PM 第4会場 (札幌コンベンションセンター 1階 107+108)

座長:高山正伸(相生会杉岡記念病院 骨関節センターリハビリテーション科)

[O-MT-10-5] 人工股関節全置換術後患者の歩行速度に関わる運動機能と判断基準

―将来的な介護予防の観点から―

松本幸大1, 浦川宰1, 小澤亜紀子1, 山副孝文1, 溝口靖亮1, 大崎諒1, 平野大輔1, 島田直宜1, 藤田詩織1, 金潤澤2, 田中伸哉2, 間嶋滿1 (1.埼玉医科大学病院リハビリテーション科, 2.埼玉医科大学医学部整形外科学教室)

Keywords:人工股関節全置換術, 歩行速度, 運動機能

【はじめに,目的】

人工股関節全置換術(THA)後患者において,歩行能力は退院後のADLやQOLに関わるため,THA術後の理学療法において歩行能力の向上は重要な目標である。一般高齢者において,歩行速度1.0m/sec未満では介護を必要とする割合が高いことが報告されているが,THA術後患者においては,歩行自立や自宅退院に必要な要因を検討した報告が多く,歩行速度に関わる運動機能と判断基準に関する報告は少ない。本研究の目的は,THA術後患者の将来的な介護予防という観点から歩行速度1.0m/secに関わる運動機能とその判断基準を検討することである。


【方法】

対象は当院でTHA術後に理学療法を施行した患者184例の中から重篤な合併症がなく,退院前に10m歩行時間の測定が可能であった165例(平均年齢64.09±10.66歳,男性36例,女性129例)とした。

調査項目は基本属性として,年齢,性別,BMI,JOA Hip score,入院期間,実用歩行獲得までの期間,評価日を調査した。また運動機能評価は,VAS(安静時,歩行時),ROM(股屈曲・伸展),等尺性筋力(股外転,膝伸展),片脚立位保持時間,10m歩行時間,6MWT,TUGを測定した。

10m歩行時間から歩行速度を算出し,歩行速度が1.0m/sec以上であった患者を正常群,1.0m/sec未満であった患者を低下群とし2群に分けた。

統計解析は正常群と低下群で基本属性,運動機能の比較を対応のないt検定を用いて検討した。性別についてはχ2検定を用いた。さらに単変量解析にて有意であった項目を独立変数,正常群・低下群を従属変数とした二項ロジスティック回帰分析を行った。歩行速度に独立して影響するとされた因子については,ROC曲線を用いて,正常群と低下群を最適に分類するためのカットオフ値と曲線下面積(AUC)を求めた。全ての統計処理はSPSS Statistics 20を用い,危険率5%を有意水準とした。


【結果】

歩行速度の結果から正常群121名,低下群44名であった。2群間の比較では非術側JOA Hip score,実用歩行獲得までに要した期間,非術側股屈曲・両側股伸展ROM,両側股外転・膝伸展筋力,両側片脚立位保持時間,6MWT,TUGで有意差を認めた。多変量解析の結果は,歩行速度に独立して関わる因子として非術側股外転筋力が抽出された[オッズ比0.01。95%信頼区間(0.001-0.09,p<0.01)]。ROC曲線のAUCは0.75(p<0.01)であり,歩行速度1.0m/sec以上を判断するためのカットオフ値は0.56Nm/kg(感度81.5%,特異度62.5%)であった。非術側股外転筋力と歩行速度の関係では非股外転筋力0.19Nm/kg以下では正常群を認めず,0.94Nm/kg以上になると全例が正常群であった。


【結論】

本研究の結果からTHA術後患者の歩行能力には非術側股外転筋力が関連していることが示され,退院前の歩行速度1.0m/secを判断するための基準は0.56Nm/kgであった。退院後のADLやQOLを向上させ,将来的な介護予防に向けては術側のみならず非術側股外転筋力などの運動機能向上を図ることが重要である。