[O-MT-19-2] 人工股関節全置換術後10年経過した患者の転倒に関連する要因
キーワード:人工股関節全置換術, 転倒予防, 身体活動量
【はじめに,目的】
人工股関節全置換術(THA)後の転倒は,股関節脱臼やステム周囲骨折など重篤な合併症の要因となる恐れがある。これまでに,THA後の転倒発生率は,約31~36%と同年代の健康者よりも高いと報告されているが,術後長期経過した患者の身体機能と転倒に関する報告は少ない。そこで本研究は,THA後10年経過した患者の身体機能を調査し,転倒に関連する要因を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,変形性股関節症を原疾患としてTHAを施行し,10年が経過した患者60名(年齢67.7±0.6歳,BMI24.0±0.6kg/m2,男性9名,女性51名)。取り込み基準は,術後合併症及び重篤な内科的・整形外科的疾患がない者とした。問診にて過去1年間の転倒経験を調査し,転倒経験あり群(転倒群)と転倒経験がない群(非転倒群)に群分けした。
検討項目は,患者背景(年齢,性別,BMI,患肢,術式,Comorbidity Index,他の整形外科疾患の有無),運動機能(股関節可動域,等尺性股関節外転筋力(外転筋力),片脚立位時間,10m歩行時間),身体活動量とした。外転筋力の測定は,ハンドヘルドダイナモメーターを用いて,最大等尺性収縮筋力のトルク体重比(Nm/kg)を算出した。また,身体活動量は,国際標準化身体活動質問票日本語版short versionを用いて,1週間あたりの消費カロリー量(kcal/week)を算出し,1000kcal以上(高活動)と1000kcal未満(低活動)に分類した。統計学的解析は,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定及びχ2検定を用いて比較した。全ての有意水準は,5%未満とした。
【結果】
転倒群は,60名中21名(35.0%)であった。また,転倒群は,非転倒群と比較して,両側の外転筋力が有意に低値であった(10年目術側:転倒群:0.67±0.27 Nm/kg,非転倒群:0.83±0.26 Nm/kg,p=0.037)(対側:転倒群:0.72±0.26 Nm/kg,非転倒群:0.87±0.27 Nm/kg,p=0.042)。さらに,10年目術側の片脚立位時間が有意に低値であった(転倒群:17.2±20.5秒,非転倒群:29.9±23.2秒,p=0.041)。加えて,高活動が有意に少なかった(転倒群:21人中5人(23.8%),非転倒群:39人中21人(53.8%),p=0.025)。
【結論】
結果より,転倒群は非転倒群と比較して,外転筋力や片脚立位時間が有意に低値であったことだけではなく,高活動が有意に少なかった。Buchmanらは,高齢者の身体活動量と下肢機能は,相互に関連していると報告している。すなわち,THA後10年経過した患者においても高齢者と同様に,身体活動量と下肢機能が相互に関連している可能性が考えられる。また,身体活動量は,生活状況や社会活動と関連していることを考慮すると,術後長期間が経過した患者に対して,人工関節の脱臼や摩耗に留意した活動方法を提示し,社会参加を促すことや安全に外出が出来るよう下肢機能に合わせた歩行補助具を選択するなどのマネジメントとしての関わりが必要であると考えた。
人工股関節全置換術(THA)後の転倒は,股関節脱臼やステム周囲骨折など重篤な合併症の要因となる恐れがある。これまでに,THA後の転倒発生率は,約31~36%と同年代の健康者よりも高いと報告されているが,術後長期経過した患者の身体機能と転倒に関する報告は少ない。そこで本研究は,THA後10年経過した患者の身体機能を調査し,転倒に関連する要因を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,変形性股関節症を原疾患としてTHAを施行し,10年が経過した患者60名(年齢67.7±0.6歳,BMI24.0±0.6kg/m2,男性9名,女性51名)。取り込み基準は,術後合併症及び重篤な内科的・整形外科的疾患がない者とした。問診にて過去1年間の転倒経験を調査し,転倒経験あり群(転倒群)と転倒経験がない群(非転倒群)に群分けした。
検討項目は,患者背景(年齢,性別,BMI,患肢,術式,Comorbidity Index,他の整形外科疾患の有無),運動機能(股関節可動域,等尺性股関節外転筋力(外転筋力),片脚立位時間,10m歩行時間),身体活動量とした。外転筋力の測定は,ハンドヘルドダイナモメーターを用いて,最大等尺性収縮筋力のトルク体重比(Nm/kg)を算出した。また,身体活動量は,国際標準化身体活動質問票日本語版short versionを用いて,1週間あたりの消費カロリー量(kcal/week)を算出し,1000kcal以上(高活動)と1000kcal未満(低活動)に分類した。統計学的解析は,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定及びχ2検定を用いて比較した。全ての有意水準は,5%未満とした。
【結果】
転倒群は,60名中21名(35.0%)であった。また,転倒群は,非転倒群と比較して,両側の外転筋力が有意に低値であった(10年目術側:転倒群:0.67±0.27 Nm/kg,非転倒群:0.83±0.26 Nm/kg,p=0.037)(対側:転倒群:0.72±0.26 Nm/kg,非転倒群:0.87±0.27 Nm/kg,p=0.042)。さらに,10年目術側の片脚立位時間が有意に低値であった(転倒群:17.2±20.5秒,非転倒群:29.9±23.2秒,p=0.041)。加えて,高活動が有意に少なかった(転倒群:21人中5人(23.8%),非転倒群:39人中21人(53.8%),p=0.025)。
【結論】
結果より,転倒群は非転倒群と比較して,外転筋力や片脚立位時間が有意に低値であったことだけではなく,高活動が有意に少なかった。Buchmanらは,高齢者の身体活動量と下肢機能は,相互に関連していると報告している。すなわち,THA後10年経過した患者においても高齢者と同様に,身体活動量と下肢機能が相互に関連している可能性が考えられる。また,身体活動量は,生活状況や社会活動と関連していることを考慮すると,術後長期間が経過した患者に対して,人工関節の脱臼や摩耗に留意した活動方法を提示し,社会参加を促すことや安全に外出が出来るよう下肢機能に合わせた歩行補助具を選択するなどのマネジメントとしての関わりが必要であると考えた。