第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本運動器理学療法学会 一般演題口述
(運動器)22

Sun. May 29, 2016 11:10 AM - 12:10 PM 第8会場 (札幌コンベンションセンター 2階 206)

座長:柿崎藤泰(文京学院大学 保健医療技術学部理学療法学科)

[O-MT-22-3] 心窩部痛により治療が難渋し,胸郭に対するアプローチにより改善が認められた症例

AB法を用いて検討

小原滉平, 阪本良太, 金澤壽久 (大野記念病院)

Keywords:疼痛, 胸郭, シングルケーススタディー

【はじめに,目的】

心窩部痛によりADL低下を来たし,自宅復帰に難渋した症例を担当した。入院時より心窩部痛が原因となり運動機能改善が認められず,治療プランを再検討後自宅退院へと繋がった。今回,呼吸機能と心窩部痛の関係が示唆されたため報告する。

【方法】

対象は2015年5月心窩部痛により離床困難となり,当院救急搬送され心筋梗塞疑いで,加療目的にて入院となり,第2病日より理学療法開始となった60歳代男性である。入院時より離床時の心窩部痛を強く訴え,日中臥床期間が長く,離床をうまく進めることが出来ずにいた。疼痛原因は不明であり,心窩部痛を誘因とする疾患は全て否定された。しかし,心窩部痛を訴える際に共通して過呼吸傾向を認めた。当初はSpO2に問題が無かったため呼吸機能に着目していなかったが,呼吸機能と疼痛の神経回路が同じであることから,呼吸機能低下が心窩部痛の原因因子ではないかと推測を立て治療プランを再検討した。そして,胸郭に対するアプローチを追加実施した結果,疼痛の軽減を認めた。その後,離床機会が増え第50病日には自宅退院となった。

今回,治療プラン再検討後の治療効果について検証した(シングルケーススタディAB法)。治療プラン再検討前の第2~30病日をA期,その後の第31~50病日をB期と設定し,午前・午後60分の治療を実施した。評価尺度はNRS,端座位保持時間,連続歩行距離を用いて屋内にて同じ環境設定下で評価した。呼吸困難感の指標としてHugh-jones分類を使用した。

【結果】

NRSはA期座位時9~8,歩行時8がB期では座位時6~5,歩行時5に改善。端座位保持時間はA期10秒~60秒がB期7分間まで改善。連続歩行距離はA期30~40mがB期50~70まで改善し,Hugh-jones分類にてV度からIV度へ改善が見られた。

【結論】

A期では運動機能に変化は見られなかったが,B期でNRS,端座位時間,連続歩行距離に改善が認められた。入院当初,主治医も心窩部痛の原因は内科的問題にあると考えていたが,精査の結果,関与する疾患は特定出来なかった。先行研究によると,呼吸困難と疼痛は共通した神経回路を有し,両者が存在する場合には相互作用を働かすことが想定出来るとされ,さらに疼痛閾値と吸気陰圧向上との比例関係が認められると報告されている。本症例では胸郭運動,呼吸筋運動により横隔膜,外肋間筋の活動性が高まり,陰圧が低下することで疼痛閾値が比例して低下し,心窩部痛が軽減したと推論立てた。

以上より,呼吸機能低下と疼痛の神経回路は同一であることから,原因が特定出来ない疼痛を訴え,呼吸機能に何らかの異常が生じている場合は,呼吸機能に対するアプローチも思慮したPTプログラムを立案するべきであることが示唆された。