第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本神経理学療法学会 一般演題口述
(神経)01

2016年5月27日(金) 10:00 〜 11:00 第7会場 (札幌コンベンションセンター 2階 204)

座長:斎藤均(横浜市立市民病院 リハビリテーション部)

[O-NV-01-1] 脳卒中痙性麻痺患者に対する足部ストレッチング手技についての主成分分析を用いた力学的な評価

山田南欧美1, 岡本正吾2, 山田陽滋2, 磯貝香2, 松永拓洋3, 河上敬介4, 内山靖1 (1.名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻, 2.名古屋大学大学院工学研究科機械理工学専攻, 3.医療法人社団喜峰会東海記念病院, 4.大分大学福祉健康科学部設置室)

キーワード:痙縮, ストレッチング, 主成分分析

【はじめに,目的】

脳卒中で生じる痙性麻痺に対し,徒手ストレッチングが広く行われているが,手技に対する定量的な分析は十分にされていない。そこで本研究では,ストレッチング中の力学的要素を定量的に計測・分析する計測機器と解析法を開発し,脳卒中痙性麻痺患者に対する足部ストレッチング手技の特性を明らかにすることを目的とした。


【方法】

対象は理学療法士3名(経験年数:5,7,24年),脳卒中痙性麻痺患者3名(Modified Ashworth Scale:1+,2,3)とした。6軸力覚センサを踵部に内蔵した自作・開発の靴型装置を患者の麻痺側足部に装着し,この装置を介して理学療法士が患者の足部を10秒間ストレッチングしている際の信号を記録した。3次元動作解析装置と同期させ,靴型装置踵部に加わる3軸方向の力・モーメントと,足部3軸周りの角度の計9要素のデータを120 Hzで計測した。

得られた9要素の計測データについて,3名の理学療法士が同一患者に対し9試行ずつストレッチングを行う理学療法士複数群と,1名の理学療法士が3名の患者に対し9試行ずつストレッチングを行う患者複数群に分けて比較した。解析は,10秒間のストレッチングのうち底屈位から背屈位へ至る相を抽出し,各群に主成分分析を応用した。同定された主成分は累積寄与率が80%を超える時点まで採択した。


【結果】

理学療法士複数群の寄与率は,第1主成分は88.1%,第2主成分は4.7%であった。患者複数群の寄与率は,第1主成分が64.8%,第2主成分は15.9%であった。理学療法士複数群では,第1主成分は,踵を爪先方向へ押す力,踵を遠位方へ引く力,踵を外側方へ押す力,背屈モーメント,内転モーメントを主に含んでいた。第2主成分は,踵を近位方へ押す力と外転モーメントを含んでいた。一方,患者複数群では,第1主成分は,踵を爪先方向へ押す力,踵を遠位方へ引く力,踵を外側方へ押す力,背屈モーメントを主に含んでいた。第2主成分は,背屈角度,踵を近位方へ押す力,踵を外側方へ押す力,外転モーメントを主に含んでいた。


【結論】

理学療法士複数群の寄与率から,同一患者に対して複数の理学療法士が行うストレッチング手技に高い共通性があることが示された。第1主成分の特徴は,対象となった患者に施行すべき基本手技の要素を反映していると考えられる。一方,患者複数群の寄与率は低く,理学療法士は自身の手技にある程度の特徴を持ちながらも,患者毎に手技を調整していることが示された。両群の第1主成分を比較すると,患者複数群には内転モーメントが含まれていなかった。この特徴は,対象となった理学療法士の個別技能を示している可能性がある。そして,寄与率が15.9%であった患者複数群の第2主成分の特徴は,患者毎に調整するべき力学的要素を含んでいる可能性が考えられた。