第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本神経理学療法学会 一般演題口述
(神経)11

2016年5月28日(土) 14:50 〜 15:50 第8会場 (札幌コンベンションセンター 2階 206)

座長:保苅吉秀(順天堂大学医学部附属順天堂医院 リハビリテーション室)

[O-NV-11-3] 脳卒中後片麻痺者における屈筋共同運動時の足関節背屈筋に対する皮質脊髄路の関与

筋電図間コヒーレンスによる検討

北谷亮輔1,2, 大畑光司1, 橋口優1,2, 前田絢香1, 大門瑞希3, 脇田正徳1,4, 川崎詩歩未1, 山田重人1 (1.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 2.日本学術振興会特別研究員, 3.京都大学医学部人間健康科学科, 4.関西医科大学附属枚方病院)

キーワード:脳卒中, 皮質脊髄路, 共同運動

【はじめに,目的】

脳卒中後片麻痺者の特徴的な運動障害である共同運動が生じる原因としていくつかのメカニズムが報告されているが,その一つに皮質脊髄路を介した下行性入力の異常により複数の筋が同時に活動してしまうことが考えられている。筋活動に対する皮質脊髄路からの入力の程度を検討出来る手法として,周波数解析を用いて2つの筋電図波形の関連性を検討する筋電図間コヒーレンス解析があり,Beta帯域(15-35Hz)のコヒーレンスは皮質脊髄路を介した下行性入力を反映することが示されている。健常者の場合,遠位筋のみを選択的に収縮する条件よりも,共同運動のように近位筋の収縮を同時に行った条件では遠位筋のコヒーレンスが低下することが報告されている。しかし,脳卒中後片麻痺者の病的な共同運動においてこの関係性を検討した報告はなく,共同運動に対する皮質脊髄路の影響は未だ不明確である。本研究では,脳卒中後片麻痺者における足関節背屈と股関節屈曲運動時の足関節背屈筋に対する皮質脊髄路の関与の強さを筋電図間コヒーレンスにより検討することを目的とした。

【方法】

対象は地域在住の慢性期脳卒中後片麻痺者15名(年齢58.5±13.9歳,発症後年数4.4±2.1年,Fugl-Meyer下肢運動スケール22.5±4.1点)とした。座位で足関節背屈のみを選択的に行う条件と,屈筋共同運動のように股関節屈曲と同時に足関節背屈を行う条件を麻痺側・非麻痺側それぞれ低強度(10-30%MVC)にて40秒ずつ実施した。Noraxon社製Telemyo2400を用いて,両側の前脛骨筋の近位部と遠位部の表面筋電図測定を行った。周波数解析によりBeta帯域(15-35Hz)の筋電図間コヒーレンスの曲線下面積を算出した。統計処理は,病側(麻痺側・非麻痺側)と関節条件(足関節背屈・股関節屈曲)の2要因による反復測定二元配置分散分析を行った。また,共同運動に対する皮質脊髄路の関与が強い脳卒中後片麻痺者の特徴を検討するため,麻痺側の足関節背屈時と股関節屈曲時のコヒーレンスの比を算出し,Fugl-Meyer下肢運動スケール,股関節屈曲・足関節背屈筋力,10m歩行速度との関連をPearsonの積率相関係数を用いて検討した。

【結果】

分散分析の結果,2要因の有意な主効果と有意な交互作用が得られた。多重比較の結果,足関節背屈・股関節屈曲条件ともに非麻痺側と比較して麻痺側では有意にコヒーレンスが低い値を示した。非麻痺側では足関節背屈と比較して股関節屈曲条件では有意にコヒーレンスが低い一方,麻痺側では有意な差は得られなかった。また,足関節背屈・股関節屈曲のコヒーレンスの比とFugl-Meyerスケールに有意な正の相関が得られた。

【結論】

脳卒中後片麻痺者の麻痺側では選択的に足関節運動を行っても共同運動を行った時よりも皮質脊髄路からの入力を増加させることが出来ず,この特徴が強い脳卒中後片麻痺者ほどFugl-Meyerスケールで示される麻痺側の分離運動機能が低下していた。