[O-NV-15-2] 進行性核上性麻痺患者の静的・動的バランスと歩行の特徴
―パーキンソン病患者との比較―
キーワード:進行性核上性麻痺, 重心動揺, 姿勢保持障害
【はじめに,目的】
進行性核上性麻痺(以下,PSP)は注視障害,姿勢保持障害,歩行障害を主徴候とする神経変性疾患である。パーキンソン病(以下,PD)の有病率が約100人/10万人であるのに対し,PSPは11.4人/10万人と稀少な疾患である。PSPの症例報告は散見されるが,体系的にまとめた研究報告は少ない。本研究では,PSPの静的・動的バランスおよび歩行の特性について類縁疾患であるPDと比較し検討することを目的とした。
【方法】
対象は2014年4月から2015年10月までに,当院へ通院あるいは入院していたPSP患者(13名,年齢:72.1±8.9歳),PD患者(14名,年齢:74.4±5.6歳)で歩行自立から監視レベルの運動機能を有する者とした。重心動揺検査にはグラビコーダGP-7(アニマ社,東京)を用い,外周面積,単位軌跡長,単位面積軌跡長,前後・左右中心,総軌跡長,矩形面積,実効値面積,ロンベルグ率を計測した。歩行指標の測定にはウォークWay MW-1000(アニマ社,東京)を用い,歩幅,重複歩距離,歩隔,歩行角度,足角を計測した。その他に,片脚立位時間,膝伸展筋力,functional reach test,pull test,timed up and go test,10m歩行時間・歩数を評価した。PSPとPDの差の比較には,対応のないt検定,Mann-Whitney U testを用いた。各指標間の関連をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。統計解析はSPSS ver. 20を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
両疾患とも重心位置が後方へ偏位していた(PSP:-2.6±1.9 cm,PD:-2.4±2.0 cm,p=0.828)。重心動揺値では,PSPはPDに比べて外周面積(PSP:4.1±2.0 cm2,PD:7.8±3.3 cm2,p=0.002),矩形面積(PSP:19.0±9.2 cm2,PD:9.6±5.1 cm2,p=0.003),実効値面積(PSP:4.3±2.1 cm2,PD:2.3±1.5 cm2,p=0.008)は高値であり,単位面積軌跡長(PSP:13.4±2.0 cm3,PD:30.8±18.6 cm3,p=0.004)は低値であった。歩行指標では,PSPの足角が有意に大きかった(PSP:13.1±6.6度,PD:7.4±6.0度,p:0.025)。姿勢保持障害の指標であるpull testの点数はPSPが有意に高かった(PSP:3.0[2.0-3.0],PD:1.0[1.0-2.0],p<0.001)。筋力,歩行,動的バランス能力に有意差は認められなかった。また,両疾患ともにpull testと重心動揺値の間に相関は認められなかった。
【結論】
重心動揺検査では,PSPは重心動揺面積が大きく,単位面積軌跡長が小さかった。両疾患ともに後方重心傾向であったが,PSPはPDに比べて後方に対する姿勢保持障害が強いことが示された。また,歩行指標は足角に有意差を認めた。PSPとPDでは,同程度の運動機能を有する者でも,重心動揺値,姿勢保持障害,歩行指標に差があることが分かった。今後,これらの特性を考慮した介入研究を進める必要があると考えられる。PSPは稀少な疾患であるため対象者数が少ないという限界はあるが,本研究はPSPの静的・動的バランスおよび歩行の特性について体系的に検証した貴重な報告であると考えられる。
進行性核上性麻痺(以下,PSP)は注視障害,姿勢保持障害,歩行障害を主徴候とする神経変性疾患である。パーキンソン病(以下,PD)の有病率が約100人/10万人であるのに対し,PSPは11.4人/10万人と稀少な疾患である。PSPの症例報告は散見されるが,体系的にまとめた研究報告は少ない。本研究では,PSPの静的・動的バランスおよび歩行の特性について類縁疾患であるPDと比較し検討することを目的とした。
【方法】
対象は2014年4月から2015年10月までに,当院へ通院あるいは入院していたPSP患者(13名,年齢:72.1±8.9歳),PD患者(14名,年齢:74.4±5.6歳)で歩行自立から監視レベルの運動機能を有する者とした。重心動揺検査にはグラビコーダGP-7(アニマ社,東京)を用い,外周面積,単位軌跡長,単位面積軌跡長,前後・左右中心,総軌跡長,矩形面積,実効値面積,ロンベルグ率を計測した。歩行指標の測定にはウォークWay MW-1000(アニマ社,東京)を用い,歩幅,重複歩距離,歩隔,歩行角度,足角を計測した。その他に,片脚立位時間,膝伸展筋力,functional reach test,pull test,timed up and go test,10m歩行時間・歩数を評価した。PSPとPDの差の比較には,対応のないt検定,Mann-Whitney U testを用いた。各指標間の関連をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。統計解析はSPSS ver. 20を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
両疾患とも重心位置が後方へ偏位していた(PSP:-2.6±1.9 cm,PD:-2.4±2.0 cm,p=0.828)。重心動揺値では,PSPはPDに比べて外周面積(PSP:4.1±2.0 cm2,PD:7.8±3.3 cm2,p=0.002),矩形面積(PSP:19.0±9.2 cm2,PD:9.6±5.1 cm2,p=0.003),実効値面積(PSP:4.3±2.1 cm2,PD:2.3±1.5 cm2,p=0.008)は高値であり,単位面積軌跡長(PSP:13.4±2.0 cm3,PD:30.8±18.6 cm3,p=0.004)は低値であった。歩行指標では,PSPの足角が有意に大きかった(PSP:13.1±6.6度,PD:7.4±6.0度,p:0.025)。姿勢保持障害の指標であるpull testの点数はPSPが有意に高かった(PSP:3.0[2.0-3.0],PD:1.0[1.0-2.0],p<0.001)。筋力,歩行,動的バランス能力に有意差は認められなかった。また,両疾患ともにpull testと重心動揺値の間に相関は認められなかった。
【結論】
重心動揺検査では,PSPは重心動揺面積が大きく,単位面積軌跡長が小さかった。両疾患ともに後方重心傾向であったが,PSPはPDに比べて後方に対する姿勢保持障害が強いことが示された。また,歩行指標は足角に有意差を認めた。PSPとPDでは,同程度の運動機能を有する者でも,重心動揺値,姿勢保持障害,歩行指標に差があることが分かった。今後,これらの特性を考慮した介入研究を進める必要があると考えられる。PSPは稀少な疾患であるため対象者数が少ないという限界はあるが,本研究はPSPの静的・動的バランスおよび歩行の特性について体系的に検証した貴重な報告であると考えられる。