第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本呼吸理学療法学会 一般演題口述
(呼吸)01

2016年5月28日(土) 16:00 〜 17:00 第5会場 (札幌コンベンションセンター 2階 201+202)

座長:高橋仁美(市立秋田総合病院 リハビリテーション科)

[O-RS-01-4] 理学療法を行った整形外科疾患患者における閉塞性換気障害の合併に関する実態調査

阿南裕樹1, 俵祐一2, 田中貴子3, 千住秀明4, 神津玲2,3 (1.済生会長崎病院リハビリテーション部, 2.長崎大学病院リハビリテーション部, 3.長崎大学大学院医歯薬総合研究科, 4.複十字病院呼吸ケアリハビリセンター)

キーワード:閉塞性換気障害, 整形外科疾患, 呼吸機能

【背景】

昨今,慢性閉塞性肺疾患(COPD)の早期発見と治療の重要性が指摘されているが,非専門医ではCOPDの重要な所見である閉塞性換気障害を見過ごす事があるとの報告がある。一方,理学療法士は整形外科疾患患者に対し理学療法を行う機会が多いが,特に男性患者において呼吸器症状,喫煙歴,年齢などから閉塞性換気障害の存在が疑われる症例が少なくないことを経験する。しかし理学療法士においても,その合併に対する認識は高くなく,障害の早期発見の機会を逃している可能性がある。障害合併への注意を喚起するためには,整形外科疾患患者にどの程度閉塞性換気障害が合併するかを調査する必要がある。


【目的】

当院に入院にて理学療法を実施した整形外科疾患患者に対して,閉塞性換気障害の合併率とその特徴を調査すること。


【対象と方法】

平成23年1月から平成25年12月の3年間に手術目的で当院整形外科に入院し,理学療法を実施した40歳以上の男性患者のうち,術前に呼吸機能検査を実施していた患者を対象とした。年齢,身長,体重,呼吸機能検査の結果[%肺活量(%VC),1秒率(FEV1/FVC),%1秒量(%FEV1)],喫煙状況についてカルテより後方視的に調査した。なお,呼吸器疾患の既往を有する患者は対象から除外した。閉塞性換気障害合併の有無は1秒率が70%未満とした。


【結果】

123名が対象となったが,データ欠損により最終的な解析対象者数は101名であった。平均年齢は64.3±9.0歳,全例が肩腱板断裂に対する再建術を施行された患者であった。年齢の内訳は,40-49歳7名(6.9%),50-59歳18名(17.8%),60-69歳42名(41.6%),70-82歳34名(33.7%)であった。%肺活量107.0±15.2%(65.7-142.6%),1秒率78.5±5.4%(65.1-89.5%),%1秒量92.8±13.8%(59.4-125.5%)で,現喫煙者は24名(23.8%),過去喫煙者45名(44.5%),非喫煙者32名(31.7%)であった。閉塞性換気障害を示した患者は6名(5.9%,68.5±10.4歳)であり,%肺活量103.5±4.6%(97.2-109.5%),1秒率66.9±1.4%(65.1-68.9%),%1秒量79.1±7.9%(67.4-87.7%)であった。高齢になるにしたがい閉塞性換気障害を呈する割合は上昇し,特に70歳以上の現喫煙者では75%に閉塞性換気障害を認めた。


考察】

今回の結果では,閉塞性換気障害の合併率は5.9%であり,40歳以上日本人のCOPD有病率8.6%(大規模疫学調査研究NICE study)と比較して低値を示したが,理学療法を実施する整形外科疾患患者の中に閉塞性換気障害を合併する患者が一定の割合で存在していることが明らかとなった。特に70歳以上の現喫煙者における合併率は高いことが示された。整形外科疾患に限らず他疾患の入院治療においても同様の可能性が考えられ,理学療法士の認識がCOPD早期発見と治療のための重要な契機になる可能性があることを認識すべきである。