第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本予防理学療法学会 一般演題口述
(予防)02

2016年5月27日(金) 11:10 〜 12:10 第8会場 (札幌コンベンションセンター 2階 206)

座長:井上和久(埼玉県立大学 保健医療福祉学部理学療法学科)

[O-YB-02-2] 地域在住高齢者における身体機能が転倒恐怖感に及ぼす影響

石田豊朗1, 井平光2, 牧野圭太郎1, 木原由里子1, 志水宏太郎1, 伊藤一成1, 山口亨1, 古名丈人2 (1.札幌医科大学大学院保健医療学研究科, 2.札幌医科大学保健医療学部理学療法学科)

キーワード:転倒恐怖感, 姿勢制御, TUG

【はじめに,目的】

近年,転倒関連因子における心理的要因の一つとして転倒恐怖感が注目されている。転倒恐怖感の有無はその他の転倒関連因子から独立して転倒に影響することが報告されており,転倒恐怖感に対する介入の有用性が示唆されている。その転倒恐怖感に影響を与える因子として,姿勢制御能力が挙げられる。姿勢制御能力は,様々な身体機能を統合した能力であることが知られているが,どのような身体機能がより転倒恐怖感に影響を与えているか示した報告は少ない。本研究では,地域在住高齢者を対象に転倒恐怖感と姿勢制御に関わる複数の身体機能を測定し,身体機能が転倒恐怖感に与える影響について検討することを目的とした。

【方法】

対象はバランス機能測定調査会に参加した65歳以上の地域在住高齢者107名(男性34名,女性73名,平均年齢74.82±5.97歳)とした。測定項目として年齢,性別,転倒歴の他に,転倒恐怖感の評価として日本語版Falls Efficacy Scale(FES)を実施し,FESの得点が満点であった者をnon-Fear of Falling(FoF)群,それ以外の者をFoF群とした。また姿勢制御に関わる身体機能の評価として膝伸展筋力,Timed up and go test(TUG),Functional Reach Test,開眼片脚立位保持時間,modified Clinical Test of Sensory Interaction on Balanceを測定した。統計解析は,両群の各身体機能及び基本属性を比較するために差の検定,χ2検定を行った。また,転倒恐怖感に対する各身体機能の影響を検討するためにロジスティック回帰分析を実施した。統計処理にはIBM SPSS Statistics 20.0を用い,危険率は5%未満とした。

【結果】

107名のうち,non-FoF群は31名,FoF群は76名であった。両群の身体機能を比較した結果,膝伸展筋力(p<0.05)とTUG(p<0.05)はnon-FoF群で良好な値を示した。また,FES得点によって分類した群を従属変数,各身体機能を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行ったところ,TUG(オッズ比:1.74,p<0.05)が有意な独立変数として抽出された。

【結論】

FESの総得点が満点でなかった高齢者は下肢筋力と動的バランス能力が低下していることが示された。さらに多重ロジスティック回帰分析の結果により,姿勢制御に関わる身体機能の中でも,TUGが独立して転倒恐怖感と関連しており,TUGの結果が良好な程転倒恐怖感を抱きにくいことが明らかとなった。これは支持基底面の移動を伴う動的バランス能力が,転倒恐怖感に対して影響を与えることを示唆しており,転倒恐怖感の軽減を目的として運動介入する場合,支持基底面の移動を伴うダイナミックなバランストレーニングがより効果的である可能性が示唆された。今後,地域在住高齢者における動的バランス能力の改善が転倒恐怖感に与える効果についての検証が求められる。