第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本心血管理学療法学会 一般演題ポスター
心血管P07

2016年5月29日(日) 10:00 〜 11:00 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-HT-07-1] 繰り返す失神により自宅退院に難渋した症例

堂野牧人, 目片幸二郎, 田島理, 高本浩路, 高橋研二, 戸田一潔 (神戸赤十字病院リハビリテーション科部)

キーワード:失神, 低血圧, リスク管理

【はじめに,目的】失神は脳血流低下による一過性の意識消失であり,自然にかつ完全に意識の回復が見られる事と定義される。しかし,転倒転落やADL低下の要因となり,患者にとっては重大な問題である。今回,起立性低血圧や排尿による失神を繰り返し在宅復帰に難渋したが,環境等に配慮し自宅退院に至った症例を報告する。


【方法】症例は71歳,男性,身長166.5cm,最終体重51.8kg。診断名は急性心筋梗塞(#7,100%閉塞),ウージング型心破裂,蘇生後脳症。LVEF38%,Peak CK2000IU/L。発症前ADLは自立。発症当日IABP挿入,人工呼吸管理,低体温療法が実施された。34病日排尿の為臥位から起き上がった際に失神し転落。頭部打撲。以後,薬剤調整,補液を実施されたが,PT実施中,排尿時等,臥位からの起立時に不定期に失神を繰り返した。74病日以降睡眠時に10度の頭部高位を実施し,その前後での失神に対する影響を検討した。また,認知機能検査としてMMSEを実施した。


【結果】頭部高位実施当日,夜間排尿時の失神は生じなかったが,翌日夜間に再発。入院期間を通して失神回数はPT中3回,排尿時18回。頭部高位実施後はPT中2回,排尿時2回。臥位での排尿実施以降は排尿による失神はなかった。MMSEは27(24病日)から30(98病日)と改善していた。


【結論】失神は脳の血流量低下が原因であり,sBPが60mmHg以下になると失神に至るとされる(失神ガイドライン2012)。しかし,症例はPT中にsBP50mmHg台に低下しても失神を認める事がなく,逆に60mmHg以上でも失神する事があった。薬剤や水分の調整がなされても血圧低下や失神が改善しなかった為,自律神経調節の異常が推察される。Lieshoutら(1999)は睡眠時に頭部を挙上する事で起立性の血圧低下が軽減すると報告している。症例では夜間排尿時の失神は10度の頭部高位実施初日にはなかったが,その後の失神を完全に防ぐ事はできなかった。しかし,頭部高位実施後は失神回数が計5回であり,血圧低下が軽減している可能性がある。頭部高位実施後におけるPT中の失神はTilt立位を実施した際に生じており,臥位から座位を経ずに立位になっている為,血圧調整が困難であったと考えられる。

症例本人が自覚症状を認識し始めてからは,自覚症状のある際はすぐに横になるよう指導し日中の失神を未然に防ぐ事ができた。ADL指導を学習している事やMMSEの結果から,度重なる失神による脳への影響は少ないと考える。最終的には夜間排尿時は臥位で尿器を使用し自宅退院が可能となった。症例の失神に対する不安やストレスを軽減する為にも,環境を整える事で失神を防ぐ事はADL改善や早期退院へ繋がると考える。

血圧低下は内部障害だけでなく,脳卒中に対しても重要な安全指標となると考えられる。血圧上昇に対する運動基準は既に多くの報告があるが,血圧低下に関しては不十分であると思われる為,今後も研究を進める事が重要であると考える。