[P-KS-08-4] 課題設定方法の違いが生み出す運動学習効果の差―運動準備電位による検討―
Keywords:CNV, 運動学習, 多様性練習
【はじめに,目的】
同じ課題を繰り返し練習する単純反復練習よりも,課題を試行ごとに変えて遂行する多様性練習の方が,その後の転移・保持テストにおいて高い学習効果を示すことが報告されている。多様性練習の方が課題習得中の認知処理量が多いため,学習の記憶の固定が促進されると言われているが,その認知処理過程のメカニズムは明らかでない。また,素早く適切な動作の遂行には,適切な運動準備が重要である。単純反復練習により,適切な運動準備状態が形成され,動作パフォーマンスが高くなるという報告はあるが,多様性練習を行った後の運動準備状態の変化に関しては明らかでない。そこで本研究では,運動の準備過程を反映する脳活動として随伴陰性変動(Contingent Negative Variation:以下CNV)を指標として,課題設定方法の違いによる認知処理過程への影響を検討する。
【方法】
対象者は健常大学生とし,単純反復練習群(以下CP群),多様性練習群(以下VP群)に分ける。課題は最大ピンチ力の10%,20%の力発揮を行うこととし,音刺激後なるべく速く正確にピンチ力をPCのモニターに表示される課題値に合わせるターゲットマッチ課題を使用する。スピーカーより呈示される予告刺激(S1)の3sec後に反応刺激(S2)が呈示され,被験者はS2呈示後にピンチ動作を行う。またS2の音には周波数が2種類あり(3000Hz,1000Hz),高い音が呈示された時のみ,ピンチ動作を行う(Go-NoGo課題)。練習は12試行を10ブロック行った。練習においてCP群では,ターゲットをすべて10%に設定,VP群ではターゲットを5%,10%,15%をランダムに設定する。20%MVC保持は練習では行わず,学習の転移効果の検証として用いる。各群の練習効果は,練習前後に60試行,ターゲットを10%に設定したものと20%に設定したものを1ブロックずつ行った。評価指標としては,力発揮までの反応時間,ターゲットと発揮張力の誤差,CNVの早期成分(S1後400msec~1700msec)と後期成分(S1後1700msec~3000msec)それぞれの平均振幅とした。
【結果】
練習によりCP群は,10%,20%MVC保持のテストそれぞれで,力発揮までの反応時間,ターゲットとの発揮張力との誤差ともに,VP群に比較して,有意に減少した(p<0.05)。また,CNV後期成分に関して,10%MVC保持テストではCP群,20%MVC保持テストではVP群の方が有意に平均振幅の増加が観察された(p<0.05)。
【結論】
本研究は,VP群で高い運動学習効果および転位効果が得られると仮説を立てていたが,CP群の方が高いという逆の結果となった。一方,20%MVCテストのCNV後期成分においてのみVP群で有意な増加がみられた(p<0.05)。これらの結果は,CP練習によって繰り返し同じ課題を行うことで,既知の課題に対する高い運動準備が形成され,パフォーマンスが高くなった。一方,未知の課題に対する認知過程においては,VP練習の方が運動の準備ができていたことを示している。
同じ課題を繰り返し練習する単純反復練習よりも,課題を試行ごとに変えて遂行する多様性練習の方が,その後の転移・保持テストにおいて高い学習効果を示すことが報告されている。多様性練習の方が課題習得中の認知処理量が多いため,学習の記憶の固定が促進されると言われているが,その認知処理過程のメカニズムは明らかでない。また,素早く適切な動作の遂行には,適切な運動準備が重要である。単純反復練習により,適切な運動準備状態が形成され,動作パフォーマンスが高くなるという報告はあるが,多様性練習を行った後の運動準備状態の変化に関しては明らかでない。そこで本研究では,運動の準備過程を反映する脳活動として随伴陰性変動(Contingent Negative Variation:以下CNV)を指標として,課題設定方法の違いによる認知処理過程への影響を検討する。
【方法】
対象者は健常大学生とし,単純反復練習群(以下CP群),多様性練習群(以下VP群)に分ける。課題は最大ピンチ力の10%,20%の力発揮を行うこととし,音刺激後なるべく速く正確にピンチ力をPCのモニターに表示される課題値に合わせるターゲットマッチ課題を使用する。スピーカーより呈示される予告刺激(S1)の3sec後に反応刺激(S2)が呈示され,被験者はS2呈示後にピンチ動作を行う。またS2の音には周波数が2種類あり(3000Hz,1000Hz),高い音が呈示された時のみ,ピンチ動作を行う(Go-NoGo課題)。練習は12試行を10ブロック行った。練習においてCP群では,ターゲットをすべて10%に設定,VP群ではターゲットを5%,10%,15%をランダムに設定する。20%MVC保持は練習では行わず,学習の転移効果の検証として用いる。各群の練習効果は,練習前後に60試行,ターゲットを10%に設定したものと20%に設定したものを1ブロックずつ行った。評価指標としては,力発揮までの反応時間,ターゲットと発揮張力の誤差,CNVの早期成分(S1後400msec~1700msec)と後期成分(S1後1700msec~3000msec)それぞれの平均振幅とした。
【結果】
練習によりCP群は,10%,20%MVC保持のテストそれぞれで,力発揮までの反応時間,ターゲットとの発揮張力との誤差ともに,VP群に比較して,有意に減少した(p<0.05)。また,CNV後期成分に関して,10%MVC保持テストではCP群,20%MVC保持テストではVP群の方が有意に平均振幅の増加が観察された(p<0.05)。
【結論】
本研究は,VP群で高い運動学習効果および転位効果が得られると仮説を立てていたが,CP群の方が高いという逆の結果となった。一方,20%MVCテストのCNV後期成分においてのみVP群で有意な増加がみられた(p<0.05)。これらの結果は,CP練習によって繰り返し同じ課題を行うことで,既知の課題に対する高い運動準備が形成され,パフォーマンスが高くなった。一方,未知の課題に対する認知過程においては,VP練習の方が運動の準備ができていたことを示している。