第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P09

Fri. May 27, 2016 3:20 PM - 4:20 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-KS-09-4] 正常歩行における立脚相膝関節屈曲運動の体重心前方移動への寄与

佐藤洋一郎1, 山田憲政2 (1.北海道科学大学保健医療学部理学療法学科, 2.中京大学スポーツ科学部スポーツ教育学科)

Keywords:歩行, 膝関節屈曲運動, 前方推進

【はじめに,目的】

立脚相の膝関節屈曲は,正常歩行において観察される定型的な関節運動の1つである。この膝関節の屈曲は体重心の振幅の大きさを減少し,歩行中のエネルギー効率を高めているとされている。一方で,この膝関節の運動は下腿を前方へ回転させるため体重心の前方推進へも寄与している可能性が考えられる。しかし,立脚相膝関節屈曲と体重心前方推進との関係について検討した報告はない。そこで,本研究は,健常人による正常歩行の測定とモデルでのシミュレーションとを比較して,正常歩行における膝関節屈曲の体重心前方推進への寄与を検討することを目的とした。

【方法】

対象は,健常人11名とした。平均年齢は25.6歳,平均身長と体重はそれぞれ1.74 mと71.2 kgであった。被験者に5 mの歩行路を好みの速度で歩くよう指示し,各被験者最低3回試行した。8つの反射マーカーを,右肩峰,右大転子,右大腿骨外側上顆,右外果,右第5中足骨,左大腿骨内側上顆,左内果,そして左第1中足骨頭に貼り付けた。各マーカーの運動は,進行方向の右側に設置されたハイスピードカメラ(NR3-S2,Motion X,IDT Japan)1台を用いて毎秒100フレームで記録された。各被験者の床反力が歩行路中央に埋め込まれた2枚の床反力計(OR6-5,AMTI;FP4060,Bertec)を用いて1000 Hzにて記録された。カメラと床反力計の記録はトリガー装置(IDT Japan)を用いて同期された。動作解析ソフト(Dipp-Motion Pro,Ditect Co. Ltd.)を用いて各マーカーの位置が矢状面上の二次元座標として変換された。マーカー位置から1ストライド中の右膝関節の関節運動が算出され,床反力各成分の2回積分から体重心の各座標(前後方向と垂直方向)が算出された。また,1ストライド中の体重心と右足関節との距離が計算された。振り子の棒部分の長さが変化する,可変長の逆振り子モデルを利用して,振り子の棒部分の長さが変化したときの質点の前方への速度を算出した。

【結果】

全被験者において,右立脚相で右膝関節が屈曲する時に,体重心と右足関節の距離は縮まり,床反力の前後成分は20 N程度の瞬間的な正(推進)の力を示した。さらに同じ局面において,体重心の速度は前方への推進を示した。可変長の逆振り子モデルは,振り子の棒部分の長さが短くなる時に振り子の角速度が上昇し,質点の前方への速度が0.5 m・s-1増加した。

【考察と結論】

膝関節が屈曲するタイミングで体重心速度が前方推進を示したことから,膝関節屈曲が前方への推進力を発生させていることが示唆された。この推進力は,振り子の棒部分が短くなること(体重心と足関節の距離が短くなること)によるパラメーター励振現象(ブランコの加速技術などでみられる現象)によって質点にコリオリの力が発生したためだと考えられた。これらのことから,本研究は,立脚相の膝関節屈曲が体重心の前方推進へ寄与していることを示唆した。