[P-KS-11-2] 健常成人における椅子からの起立動作時の筋シナジー
運動学的・運動力学的協調性との関係
Keywords:筋シナジー, 起立動作, 生体力学
【はじめに,目的】
椅子から起立出来ないと生活が制限される。生活の基盤としての2足歩行が,2足での立位を前提としているためである。この点が起立動作における力学的課題であり,狭い足部の上へと重心を移動し制止しなければならない。これを達成するためには,体幹の屈曲から始まり全身が伸展して終わると言った運動学的協調性が必要である。運動学的協調性は観察による評価として簡便だが,理学療法が直接対象とするのはこの基礎にある筋活動の協調性であろう。健常成人が椅子から起立した際の筋間活動比やタイミングの定常成分(筋シナジー)を我々は前年度本大会で報告したが,一部の被験者では筋シナジーの構成が他と大きく異なっていた。本研究では,このような筋シナジーの個人差を反映する運動学的協調性や力学的特徴を検証し,健常成人がどのように起立動作の力学的課題を達成しているかの一端を示すことで,理学療法の発展に貢献することを目的とした。
【方法】
対象は健常男性7名とし,快適速度で起立動作を複数回実施,各被験者7試行を解析に含めた。多用途生体アンプを用いて下肢8筋(前脛骨筋,ヒラメ筋,腓腹筋,外側広筋,大腿直筋,半腱様筋,内転筋群,大殿筋)の表面筋電図波形を採集,非負値行列因子分解によって筋シナジーを抽出した。三次元動作解析装置も同期計測し,以下のパラメータを算出した。1)下肢各体節の仰角の位相差,2)床反力角度の最大前後変化量θgrfa-p,3)離殿時の踵-身体質量中心間角度θheel-com,4)離殿時の床反力角度θgrf。
【結果】
各被験者の起立動作から抽出された筋シナジーは2つであり,一方は離殿相,他方は伸展相に活動のピークを持った。離殿相に働く筋シナジーについて,多くの被験者で前脛骨筋の活動比がヒラメ筋よりも大きかったが,一部の被験者では前脛骨筋とヒラメ筋の活動比が近似していた。前者では骨盤前傾が下腿前傾よりも大きく遅れてピークを迎えた(平均13.65±10.95%時間)のに対し,後者ではほとんど同時だった(平均-0.50±3.10%時間)。また,前者のθgrfa-pが平均8.23±2.52°であるのに対し,後者では平均12.36±3.02°と大きかった。これに対し,全被験者でθheel-comは正であり(平均4.63±1.80°),離殿時すでに重心は支持基底面上に移動していたのに加え,θgrfも被験者間で有意差は見られなかった(平均-2.75±1.39°)。
【結論】
骨盤と下腿傾斜の転換時点が類似しており床反力の前後変化量も大きかった被験者では,前方への運動量を早期に上方へ転換しなかったことが考えられ,前脛骨筋とヒラメ筋の共活動による足関節剛性の担保が示唆された。また,立位外乱などにおける筋シナジーは一時点での床反力角度に依存するとの報告が多いが,起立動作では離殿時の床反力角度や身体質量中心位置に影響されなかったため,前後の文脈も含めた体節間ダイナミクスに筋シナジーが貢献している可能性がある。
椅子から起立出来ないと生活が制限される。生活の基盤としての2足歩行が,2足での立位を前提としているためである。この点が起立動作における力学的課題であり,狭い足部の上へと重心を移動し制止しなければならない。これを達成するためには,体幹の屈曲から始まり全身が伸展して終わると言った運動学的協調性が必要である。運動学的協調性は観察による評価として簡便だが,理学療法が直接対象とするのはこの基礎にある筋活動の協調性であろう。健常成人が椅子から起立した際の筋間活動比やタイミングの定常成分(筋シナジー)を我々は前年度本大会で報告したが,一部の被験者では筋シナジーの構成が他と大きく異なっていた。本研究では,このような筋シナジーの個人差を反映する運動学的協調性や力学的特徴を検証し,健常成人がどのように起立動作の力学的課題を達成しているかの一端を示すことで,理学療法の発展に貢献することを目的とした。
【方法】
対象は健常男性7名とし,快適速度で起立動作を複数回実施,各被験者7試行を解析に含めた。多用途生体アンプを用いて下肢8筋(前脛骨筋,ヒラメ筋,腓腹筋,外側広筋,大腿直筋,半腱様筋,内転筋群,大殿筋)の表面筋電図波形を採集,非負値行列因子分解によって筋シナジーを抽出した。三次元動作解析装置も同期計測し,以下のパラメータを算出した。1)下肢各体節の仰角の位相差,2)床反力角度の最大前後変化量θgrfa-p,3)離殿時の踵-身体質量中心間角度θheel-com,4)離殿時の床反力角度θgrf。
【結果】
各被験者の起立動作から抽出された筋シナジーは2つであり,一方は離殿相,他方は伸展相に活動のピークを持った。離殿相に働く筋シナジーについて,多くの被験者で前脛骨筋の活動比がヒラメ筋よりも大きかったが,一部の被験者では前脛骨筋とヒラメ筋の活動比が近似していた。前者では骨盤前傾が下腿前傾よりも大きく遅れてピークを迎えた(平均13.65±10.95%時間)のに対し,後者ではほとんど同時だった(平均-0.50±3.10%時間)。また,前者のθgrfa-pが平均8.23±2.52°であるのに対し,後者では平均12.36±3.02°と大きかった。これに対し,全被験者でθheel-comは正であり(平均4.63±1.80°),離殿時すでに重心は支持基底面上に移動していたのに加え,θgrfも被験者間で有意差は見られなかった(平均-2.75±1.39°)。
【結論】
骨盤と下腿傾斜の転換時点が類似しており床反力の前後変化量も大きかった被験者では,前方への運動量を早期に上方へ転換しなかったことが考えられ,前脛骨筋とヒラメ筋の共活動による足関節剛性の担保が示唆された。また,立位外乱などにおける筋シナジーは一時点での床反力角度に依存するとの報告が多いが,起立動作では離殿時の床反力角度や身体質量中心位置に影響されなかったため,前後の文脈も含めた体節間ダイナミクスに筋シナジーが貢献している可能性がある。