[P-KS-13-2] 健常人の補高による脚長差に対する前額面上の戦略
Keywords:脚長差, 三次元動作解析, 重心動揺
【はじめに,目的】
臨床上脚長差を有し,前額面上での問題を呈する症例は多い。その際,脚長差など構築学的なものに起因する健常人でも起こり得る現象と,その他筋力低下,関節可動域や疼痛などに起因する現象を鑑別して捉えることは重要である。そこで,本研究の目的は補高による脚長差がもたらす左右重心動揺への健常人の戦略を,前額面上の運動学・運動力学的観点から検討することである。
【方法】
対象は整形外科的疾患・脚長差の無い(0.5cm以内)健常男性13名(平均年齢20.2±1.7歳)とした。補高調整靴を使用し左側に厚さ2cmのリフターを靴底に貼付し,脚長差無し,2cmの2パターンで7mの自由歩行を各5回実施した。計測は赤外線カメラ6台を用いた三次元動作解析装置VICON MXと床反力計2枚を使用した。解析は5歩行周期を抽出し,立脚期の股関節内転角度・内部股関節外転モーメント(HAM)の最大値,初期接地後の骨盤傾斜(反対側沈下の傾斜)・体幹側屈角度(同側の側屈),床反力内向き成分(Fx)の最大値,重心左右変位量(左右ΔCOG)・上下変位量(上下ΔCOG)を算出し5回の平均値を採用した。また統計学的解析として脚長差無し,補高時の同側の比較をWilcoxonの符号付順位和検定,相関分析はSpearmanの順位相関係数を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
脚長差無し,補高時の比較は補高側では股関節内転・骨盤傾斜・体幹側屈角度が補高時に有意に増加,Fxは有意に低下した。非補高側では股関節内転・骨盤傾斜・体幹側屈角度が有意に低下,Fxは有意に増加した。脚長差無し,補高時で両側HAM,左右ΔCOGに有意差は無く,上下ΔCOGは補高時に有意に増加した。相関分析では,HAMと左右ΔCOGに脚長差無しでは相関は認めず,補高時には非補高側HAMと左右ΔCOGに正の相関を認めた。Fxと左右ΔCOGに脚長差無しでは相関は認めず,補高時には非補高側Fxと左右ΔCOGに正の相関を認めた。上下ΔCOGと左右ΔCOGは脚長差無しでは正の相関を認めたが,補高時では相関は認めなかった。計測した各関節角度と左右ΔCOGに相関は認めなかった。
【結論】
補高時に上下ΔCOGが有意に増加し,脚長差無しでは上下ΔCOGと左右ΔCOGに正の相関があり,補高時では相関を認めなかったことから,補高により上下ΔCOGが増加した際は左右ΔCOGを何らかの因子が制御していると考えられる。これは左右ΔCOGと計測した各関節角度に相関は無く,左右ΔCOGと非補高側Fx・HAMに正の相関を認めたこと。また歩行の時系列では非補高側のFx・HAMが荷重応答期,その後非補高側への重心移動が立脚中期にこれらの最大値を認めることから,上下ΔCOGが増加すると非補高側のFxとHAMはフィードフォワードで左右ΔCOG増加の制御に寄与する割合を高めることで,健常人は左右重心動揺を増加させず歩行が可能であると考えられる。補高による脚長差に対する健常人の戦略を示したことで,構築学的な現象とその他の因子での現象を鑑別して捉えることの一助となる意義のある研究である。
臨床上脚長差を有し,前額面上での問題を呈する症例は多い。その際,脚長差など構築学的なものに起因する健常人でも起こり得る現象と,その他筋力低下,関節可動域や疼痛などに起因する現象を鑑別して捉えることは重要である。そこで,本研究の目的は補高による脚長差がもたらす左右重心動揺への健常人の戦略を,前額面上の運動学・運動力学的観点から検討することである。
【方法】
対象は整形外科的疾患・脚長差の無い(0.5cm以内)健常男性13名(平均年齢20.2±1.7歳)とした。補高調整靴を使用し左側に厚さ2cmのリフターを靴底に貼付し,脚長差無し,2cmの2パターンで7mの自由歩行を各5回実施した。計測は赤外線カメラ6台を用いた三次元動作解析装置VICON MXと床反力計2枚を使用した。解析は5歩行周期を抽出し,立脚期の股関節内転角度・内部股関節外転モーメント(HAM)の最大値,初期接地後の骨盤傾斜(反対側沈下の傾斜)・体幹側屈角度(同側の側屈),床反力内向き成分(Fx)の最大値,重心左右変位量(左右ΔCOG)・上下変位量(上下ΔCOG)を算出し5回の平均値を採用した。また統計学的解析として脚長差無し,補高時の同側の比較をWilcoxonの符号付順位和検定,相関分析はSpearmanの順位相関係数を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
脚長差無し,補高時の比較は補高側では股関節内転・骨盤傾斜・体幹側屈角度が補高時に有意に増加,Fxは有意に低下した。非補高側では股関節内転・骨盤傾斜・体幹側屈角度が有意に低下,Fxは有意に増加した。脚長差無し,補高時で両側HAM,左右ΔCOGに有意差は無く,上下ΔCOGは補高時に有意に増加した。相関分析では,HAMと左右ΔCOGに脚長差無しでは相関は認めず,補高時には非補高側HAMと左右ΔCOGに正の相関を認めた。Fxと左右ΔCOGに脚長差無しでは相関は認めず,補高時には非補高側Fxと左右ΔCOGに正の相関を認めた。上下ΔCOGと左右ΔCOGは脚長差無しでは正の相関を認めたが,補高時では相関は認めなかった。計測した各関節角度と左右ΔCOGに相関は認めなかった。
【結論】
補高時に上下ΔCOGが有意に増加し,脚長差無しでは上下ΔCOGと左右ΔCOGに正の相関があり,補高時では相関を認めなかったことから,補高により上下ΔCOGが増加した際は左右ΔCOGを何らかの因子が制御していると考えられる。これは左右ΔCOGと計測した各関節角度に相関は無く,左右ΔCOGと非補高側Fx・HAMに正の相関を認めたこと。また歩行の時系列では非補高側のFx・HAMが荷重応答期,その後非補高側への重心移動が立脚中期にこれらの最大値を認めることから,上下ΔCOGが増加すると非補高側のFxとHAMはフィードフォワードで左右ΔCOG増加の制御に寄与する割合を高めることで,健常人は左右重心動揺を増加させず歩行が可能であると考えられる。補高による脚長差に対する健常人の戦略を示したことで,構築学的な現象とその他の因子での現象を鑑別して捉えることの一助となる意義のある研究である。