[P-KS-23-2] 下肢挙上方略による寝返り動作の解析
Keywords:寝返り, 運動力学, 床反力
【はじめに,目的】
寝返り動作は日常生活において必要不可欠な動作であり,起き上がり,立ち上がりなどの基本動作の原型となっている。理学療法の臨床上,寝返り動作を通じて他の動作の改善を図ることもあるが,多様な寝返り動作のメカニズムが十分に明らかになっているとはいえない。これは寝返りに用いられる運動方略が非常に豊富であり,正常な運動方略を定義することは難しいことが一因として挙げられる。我々は既に,下肢挙上方略による寝返り動作の前半において,寝返り側下肢の股関節外転角度が大きくなるほど,寝返り側下肢の床反力減少量の増大が認められることを示したが,上半身の運動については報告しなかった。そこで今回は下肢挙上方略による寝返り動作について,下肢と体幹運動間の協調関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
健常成人男性12名(年齢:22.3±1.4歳,身長:173.8±4.4cm,体重:64.4±10.3kg)を対象とした。課題は背臥位から左側臥位をとるまでの,両上肢を胸の前で組んだ状態から右下肢を持ち上げて寝返る寝返り動作とした。2要因計画で,速度(fast,normal,slow)×左股関節外転角度(外転20°,10°,0°,内転5°)の3×4=12条件であった。キネマティクスをVICON MXで,床反力をKISLER床反力計(60×90cm,2枚)で計測した。左右下肢の力学的作用を調べるため,開始肢位(背臥位)で,左右の上前腸骨棘の遠位20cmよりも末梢部分の下肢が,各々の床反力計の中に納まるように配置した。寝返り開始から寝返り終了(骨盤と上部体幹がともに回転90°を超えるまでとした)の時間を100%として正規化した後(正規化した時間を寝返り動作における相対時間と定義した),50%までの相対時間における左下肢床反力垂直成分,計測空間上の骨盤回転角度,体幹の相対的回旋角度を解析した。統計処理には,SPSS for Win(ver.17.0)を用いた。
【結果】
寝返り動作前半における寝返り側下肢の床反力変化は,床反力減少方向または床反力増加方向の単峰性の軌跡を示した。寝返り側下肢の床反力は股関節外転角度が大きくなるほど床反力減少量が大きくなり(p<0.01),また相対時間も股関節外転角度が大きくなるほど長くなることが示された(p<0.01)。体幹のキネマティクスに関しては,骨盤は動作開始直後に寝返り方向と逆方向にわずかに回転(3.3±0.5°)し,その後寝返り方向へと回転した。体幹回旋角度は動作開始から左回旋(7.7±1.7°)し,その後逆方向へと回旋した。骨盤回転角度と体幹回旋角度には,左股関節外転角度との関係が認められず,速度の主効果も認められなかった。
【結論】
寝返り側股関節外転角度に依存して寝返り側下肢の挙上量および挙上時期は変化したが,体幹運動と股関節外転角度との関連は認められなかった。これらの結果は,運動方略を限定し上肢の運動を制限された場合でも,寝返り動作が冗長な(自由度の高い)動作であることを示唆している。
寝返り動作は日常生活において必要不可欠な動作であり,起き上がり,立ち上がりなどの基本動作の原型となっている。理学療法の臨床上,寝返り動作を通じて他の動作の改善を図ることもあるが,多様な寝返り動作のメカニズムが十分に明らかになっているとはいえない。これは寝返りに用いられる運動方略が非常に豊富であり,正常な運動方略を定義することは難しいことが一因として挙げられる。我々は既に,下肢挙上方略による寝返り動作の前半において,寝返り側下肢の股関節外転角度が大きくなるほど,寝返り側下肢の床反力減少量の増大が認められることを示したが,上半身の運動については報告しなかった。そこで今回は下肢挙上方略による寝返り動作について,下肢と体幹運動間の協調関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
健常成人男性12名(年齢:22.3±1.4歳,身長:173.8±4.4cm,体重:64.4±10.3kg)を対象とした。課題は背臥位から左側臥位をとるまでの,両上肢を胸の前で組んだ状態から右下肢を持ち上げて寝返る寝返り動作とした。2要因計画で,速度(fast,normal,slow)×左股関節外転角度(外転20°,10°,0°,内転5°)の3×4=12条件であった。キネマティクスをVICON MXで,床反力をKISLER床反力計(60×90cm,2枚)で計測した。左右下肢の力学的作用を調べるため,開始肢位(背臥位)で,左右の上前腸骨棘の遠位20cmよりも末梢部分の下肢が,各々の床反力計の中に納まるように配置した。寝返り開始から寝返り終了(骨盤と上部体幹がともに回転90°を超えるまでとした)の時間を100%として正規化した後(正規化した時間を寝返り動作における相対時間と定義した),50%までの相対時間における左下肢床反力垂直成分,計測空間上の骨盤回転角度,体幹の相対的回旋角度を解析した。統計処理には,SPSS for Win(ver.17.0)を用いた。
【結果】
寝返り動作前半における寝返り側下肢の床反力変化は,床反力減少方向または床反力増加方向の単峰性の軌跡を示した。寝返り側下肢の床反力は股関節外転角度が大きくなるほど床反力減少量が大きくなり(p<0.01),また相対時間も股関節外転角度が大きくなるほど長くなることが示された(p<0.01)。体幹のキネマティクスに関しては,骨盤は動作開始直後に寝返り方向と逆方向にわずかに回転(3.3±0.5°)し,その後寝返り方向へと回転した。体幹回旋角度は動作開始から左回旋(7.7±1.7°)し,その後逆方向へと回旋した。骨盤回転角度と体幹回旋角度には,左股関節外転角度との関係が認められず,速度の主効果も認められなかった。
【結論】
寝返り側股関節外転角度に依存して寝返り側下肢の挙上量および挙上時期は変化したが,体幹運動と股関節外転角度との関連は認められなかった。これらの結果は,運動方略を限定し上肢の運動を制限された場合でも,寝返り動作が冗長な(自由度の高い)動作であることを示唆している。