[P-KS-26-3] ラット拘縮モデルに対する牽引とモビライゼーションが拘縮の予防に及ぼす効果
キーワード:拘縮, 牽引, モビライゼーション
【はじめに,目的】
拘縮の予防や治療には,関節可動域運動やモビライゼーションなどの徒手的な運動療法が展開されている。これらが拘縮の予防に対してどのような効果を示すのか組織学的に検討された報告は少なく,詳細は明らかにされていない。そこで今回,関節不動化中に牽引とモビライゼーションを行い,予防効果を病理組織学的に検討することを目的として実験を行った。
【方法】
対象は8週齢のWistar系雄ラット16匹(体重190~223g)を用いた。無作為に対照群(C群,n=3)と実験群(n=13)に分けて,C群は実験期間終了まで通常飼育した。実験群には先行研究に準じて右後肢を4週間ギプス固定した。固定翌日に無作為に不動化群(I群,n=4),牽引群(T群,n=4),モビライゼーション群(M群,n=5)の3群に分け,ギプスを解除した上でT群とM群には予防介入を行った。I群はT群とM群同様にギプスを解除して吸入麻酔の操作のみ実施した。T群とM群は固定開始翌日から1日1回,週7日の頻度で4週間介入を行った。T群の介入は牽引を行い,吸入麻酔下でラットを腹臥位として膝関節最終伸展域で脛骨の長軸方向に3Nの力で1分間牽引し,1分サイクルで10セット(計10分間)実施した。M群の介入はモビライゼーションを行い,吸入麻酔下で牽引と同様の肢位を保持して膝関節最終伸展域で脛骨長軸方向に3Nで牽引を加えた。その状態から脛骨近位部を前方へ2Nの力で1秒間押し,1秒サイクルで300回(計10分間)実施した。いずれの群も介入後にギプスにより再固定した。固定開始から1週ごとにすべての群の伸展制限角を測定した。実験期間終了後,麻酔の過剰投与により安楽死させ,通常の組織標本作製手順にてパラフィン包埋した。滑走式ミクロトームにて薄切し,ヘマトキシリン・エオジン染色を行い光学顕微鏡下にて膝関節全体を鏡検した。顕微鏡画像ソフトを用い,軟骨および後部関節包の厚さを計測した。
【結果】
関節可動域の変化については,いずれの群も経過とともに伸展制限は生じ,4週後にはI群で約70°,T群とM群は約65°の伸展制限を認めた。群間の有意差は認められなかった。組織学的所見については,M群の1標本を除くすべて群の全標本で軟骨滑膜移行部から軟骨表面を覆うように線維性組織が増生していたが,滑膜との癒着は認められなかった。I群の全標本で大腿骨軟骨の菲薄化の傾向が認められたが,T群とM群の菲薄化は軽微であった。また,I群の全標本で後部関節包の膠原線維束の肥厚と線維間隙の狭小化を認めた。これに対し,T群とM群の線維間隙は拡大傾向であった。軟骨および後部関節包の厚さは群間で有意差は認められなかった。
【結論】
拘縮の予防として牽引およびモビライゼーションの効果は乏しく,不動化時間の影響が大きいと考えられる。組織学的な効果としては,関節軟骨および後部関節包の器質的変化を軽減できる可能性がある。
拘縮の予防や治療には,関節可動域運動やモビライゼーションなどの徒手的な運動療法が展開されている。これらが拘縮の予防に対してどのような効果を示すのか組織学的に検討された報告は少なく,詳細は明らかにされていない。そこで今回,関節不動化中に牽引とモビライゼーションを行い,予防効果を病理組織学的に検討することを目的として実験を行った。
【方法】
対象は8週齢のWistar系雄ラット16匹(体重190~223g)を用いた。無作為に対照群(C群,n=3)と実験群(n=13)に分けて,C群は実験期間終了まで通常飼育した。実験群には先行研究に準じて右後肢を4週間ギプス固定した。固定翌日に無作為に不動化群(I群,n=4),牽引群(T群,n=4),モビライゼーション群(M群,n=5)の3群に分け,ギプスを解除した上でT群とM群には予防介入を行った。I群はT群とM群同様にギプスを解除して吸入麻酔の操作のみ実施した。T群とM群は固定開始翌日から1日1回,週7日の頻度で4週間介入を行った。T群の介入は牽引を行い,吸入麻酔下でラットを腹臥位として膝関節最終伸展域で脛骨の長軸方向に3Nの力で1分間牽引し,1分サイクルで10セット(計10分間)実施した。M群の介入はモビライゼーションを行い,吸入麻酔下で牽引と同様の肢位を保持して膝関節最終伸展域で脛骨長軸方向に3Nで牽引を加えた。その状態から脛骨近位部を前方へ2Nの力で1秒間押し,1秒サイクルで300回(計10分間)実施した。いずれの群も介入後にギプスにより再固定した。固定開始から1週ごとにすべての群の伸展制限角を測定した。実験期間終了後,麻酔の過剰投与により安楽死させ,通常の組織標本作製手順にてパラフィン包埋した。滑走式ミクロトームにて薄切し,ヘマトキシリン・エオジン染色を行い光学顕微鏡下にて膝関節全体を鏡検した。顕微鏡画像ソフトを用い,軟骨および後部関節包の厚さを計測した。
【結果】
関節可動域の変化については,いずれの群も経過とともに伸展制限は生じ,4週後にはI群で約70°,T群とM群は約65°の伸展制限を認めた。群間の有意差は認められなかった。組織学的所見については,M群の1標本を除くすべて群の全標本で軟骨滑膜移行部から軟骨表面を覆うように線維性組織が増生していたが,滑膜との癒着は認められなかった。I群の全標本で大腿骨軟骨の菲薄化の傾向が認められたが,T群とM群の菲薄化は軽微であった。また,I群の全標本で後部関節包の膠原線維束の肥厚と線維間隙の狭小化を認めた。これに対し,T群とM群の線維間隙は拡大傾向であった。軟骨および後部関節包の厚さは群間で有意差は認められなかった。
【結論】
拘縮の予防として牽引およびモビライゼーションの効果は乏しく,不動化時間の影響が大きいと考えられる。組織学的な効果としては,関節軟骨および後部関節包の器質的変化を軽減できる可能性がある。