[P-KS-28-2] 歩行時の杖の使用が歩幅調整の正確性に与える影響
キーワード:歩幅, 杖, 距離感覚
【はじめに,目的】
杖の使用は姿勢や歩行の安定に貢献する(Bateni, 2005)一方で,高齢者は杖の操作が困難である(Mann, 1995)との報告がある。杖操作の指導では,杖の接地位置を目安に歩幅を調整することがあるが,操作方法は個人に任せていることが多い。本研究では効果的な杖操作の指導につながる基礎的な知見を得ることを目的として,歩行中のT字杖の使用の有無により歩幅調整の正確性にどのような違いがあるかを比較することとした。
【方法】
対象者は健常成人14名(男性5名,女性9名,平均年齢20.7(SD1.2)歳)であり,杖使用の要因(あり・なし)と歩幅要因(通常・小・大)の組み合わせからなる6条件の歩行課題を実施した。歩行課題における歩幅の目標値を設定するために「ゆっくりした速度」での歩幅を求め,その歩幅を「通常」の歩幅とし,それより20%短い歩幅を「小さい」歩幅,20%長い歩幅を「大きい」歩幅とした。杖ありでの歩行課題では3動作揃え型の歩行形態とした。歩行課題の実験試行は視覚的に歩幅を確認する練習試行(5回)の後におこない,課題施行中は前方の注視点を見ながら歩行した。なお歩行課題の実施順序は対象者間でカウンターバランスを取った。
歩行課題では母趾背側にマーカーを貼付し側方からビデオカメラにて10歩分の歩行を撮影した。撮影した画像はダートフィッシュTeam Pro 5.5(ダートフィッシュ社)を用いてマーカー位置を指標として歩幅を計測した。歩幅調節の正確性はそれぞれの目標値からの差分について目標値あたりの誤差を算出し,10歩の平均値のz-scoreを個人の代表値とした。また10歩の歩幅の変動係数を求め,歩幅の一貫性の指標とした。誤差と変動係数はそれぞれ2要因分散分析にて要因の影響を検定した。
【結果】
誤差については歩幅要因の主効果を認め(F=8.2,p<0.05),通常よりも小さい歩幅で値が大きかった。また2要因の交互作用を認め,下位検定から杖あり条件では小さい歩幅の値が最も大きいことが分かった(p<0.05)。変動係数については杖要因の主効果(F=8.5,p<0.05)から,杖なしよりもありの条件で値が大きく,また歩幅要因の主効果(F=14.6,p<0.05)から,小さな歩幅において最も値が大きかった。
【結論】
T字杖を用いた歩行では小さな歩幅を調節する際に正確性が低くなり,さらに歩幅のばらつきが大きいことが分かった。これは歩行中の杖の操作が正確な距離感覚や一定した歩幅での歩容を阻害した結果と考えられる。臨床現場では杖を使い始めた段階では杖の使用に慣れていないため,遅い歩行速度で小さな歩幅を指導することが多いが,このような距離感覚の調整は対象者にとっては困難な課題であると考えられる。また杖の使用による歩幅の一貫性の低さは歩容の不安定さや転倒につながる危険も予想される。今後は杖の接地位置を指標として,適切な歩幅感覚や安定した歩容のための介入方法を検討していく予定である。
杖の使用は姿勢や歩行の安定に貢献する(Bateni, 2005)一方で,高齢者は杖の操作が困難である(Mann, 1995)との報告がある。杖操作の指導では,杖の接地位置を目安に歩幅を調整することがあるが,操作方法は個人に任せていることが多い。本研究では効果的な杖操作の指導につながる基礎的な知見を得ることを目的として,歩行中のT字杖の使用の有無により歩幅調整の正確性にどのような違いがあるかを比較することとした。
【方法】
対象者は健常成人14名(男性5名,女性9名,平均年齢20.7(SD1.2)歳)であり,杖使用の要因(あり・なし)と歩幅要因(通常・小・大)の組み合わせからなる6条件の歩行課題を実施した。歩行課題における歩幅の目標値を設定するために「ゆっくりした速度」での歩幅を求め,その歩幅を「通常」の歩幅とし,それより20%短い歩幅を「小さい」歩幅,20%長い歩幅を「大きい」歩幅とした。杖ありでの歩行課題では3動作揃え型の歩行形態とした。歩行課題の実験試行は視覚的に歩幅を確認する練習試行(5回)の後におこない,課題施行中は前方の注視点を見ながら歩行した。なお歩行課題の実施順序は対象者間でカウンターバランスを取った。
歩行課題では母趾背側にマーカーを貼付し側方からビデオカメラにて10歩分の歩行を撮影した。撮影した画像はダートフィッシュTeam Pro 5.5(ダートフィッシュ社)を用いてマーカー位置を指標として歩幅を計測した。歩幅調節の正確性はそれぞれの目標値からの差分について目標値あたりの誤差を算出し,10歩の平均値のz-scoreを個人の代表値とした。また10歩の歩幅の変動係数を求め,歩幅の一貫性の指標とした。誤差と変動係数はそれぞれ2要因分散分析にて要因の影響を検定した。
【結果】
誤差については歩幅要因の主効果を認め(F=8.2,p<0.05),通常よりも小さい歩幅で値が大きかった。また2要因の交互作用を認め,下位検定から杖あり条件では小さい歩幅の値が最も大きいことが分かった(p<0.05)。変動係数については杖要因の主効果(F=8.5,p<0.05)から,杖なしよりもありの条件で値が大きく,また歩幅要因の主効果(F=14.6,p<0.05)から,小さな歩幅において最も値が大きかった。
【結論】
T字杖を用いた歩行では小さな歩幅を調節する際に正確性が低くなり,さらに歩幅のばらつきが大きいことが分かった。これは歩行中の杖の操作が正確な距離感覚や一定した歩幅での歩容を阻害した結果と考えられる。臨床現場では杖を使い始めた段階では杖の使用に慣れていないため,遅い歩行速度で小さな歩幅を指導することが多いが,このような距離感覚の調整は対象者にとっては困難な課題であると考えられる。また杖の使用による歩幅の一貫性の低さは歩容の不安定さや転倒につながる危険も予想される。今後は杖の接地位置を指標として,適切な歩幅感覚や安定した歩容のための介入方法を検討していく予定である。