第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P28

2016年5月28日(土) 16:00 〜 17:00 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-KS-28-4] 左右逆転プリズム眼鏡を装着した歩行動作の習熟における2種類の練習方法の比較

越後あゆみ1,2, 岩月宏泰1 (1.青森県立保健大学大学院, 2.東北メディカル学院)

キーワード:全習法, 分習法, 歩行

【はじめに,目的】理学療法の臨床では対象者に運動を獲得させる練習に運動学習理論を用いることが多い。運動学習を効果的に促進するためには,練習量や練習方法も重要な要素となる。方法には様々あるが,全習法と分習法は臨床でも多く用いられる。しかし,それらの効果を比較した研究は少ない。本研究では健常青年を対象に左右逆転プリズム眼鏡を装着した歩行を課題とし,全習法と分習法で練習効果が異なるかを所用時間や修正回数から比較することとした。

【方法】対象は健常青年9名(年齢20.4±0.5歳 身長169.5±8.3cm 体重57.9±6.8kg)であった。課題は5m先で戻るUターン歩行で,これを歩行テストとした。手順は,左右逆転プリズム(竹井機器工業株式会社製:視野角度水平24°,垂直50°)非装着,装着時に歩行テストを実施後,3条件の練習をランダムに行い各練習直後に歩行テストを実施した。なお,各条件間に10分の休憩を取った。条件は,テープを目印に歩行路を全て歩く練習(全習法),左右それぞれ目印に向かい1歩踏み出す練習(分習法1),目印に合わせて4歩進む練習(分習法2)の3つとした。歩行テスト中,右側前脛骨筋と腓腹筋外側頭からの表面筋電図,三軸加速度による頭部の動揺,右踵接地時間,歩行時の足関節角度,歩行時間,修正回数,歩数を計測した。統計学的分析にはSPSS ver.22を使用し,Kruskal Wallis検定を用いて所要時間,修正回数の差を比較した。また,所要時間・修正回数と測定項目のそれぞれの関係をSpearmanの順位相関係数にて算出した。

【結果】プリズム装着により所要時間35.3±24.8秒,修正回数6.3±5.0回ともに増加し前脛骨筋,腓腹筋外側頭の筋活動が低減するすくみ足がみられた。練習後は,3条件とも所要時間が短縮し全習法後19.0±8.3秒で最も短縮したが,各条件間で有意な差は認められなかった(p<0.05)。修正回数も分習法2は3±3.4回で最も減少したが,各条件間で有意な差は認められなかった(p<0.05)。所要時間と各項目の関連は,全習法における前脛骨筋にのみ強い負の相関を認めた(r=-0.69,p<0.05)。修正回数と各項目の関連は,分習法1における加速度の左右成分(r=0.60,p<0.05)と分習法2における加速度の前後成分(r=0.73,p<0.05)において強い正の相関を認めた。

【結論】所要時間は全習法で短縮したことから,左右逆転した視空間での歩行能力を高めたと考えられた。しかし,下腿筋群筋活動と負の相関が認められたことから,学習後であっても一歩を踏み出すことを躊躇しながら歩行していることが推測された。修正回数は分習法2で減少したことから,歩行路を正確に歩く能力を高めたと考えられた。この時,加速度前後成分と正の相関を認めたことから前後の視空間への適応が一歩の調整に関与していることが考えられた。歩行の習熟には,望む方向へ進む能力と環境へ適応する能力,鉛直方向の安定性が必要(Das&McCollum, 1988)だが,2種類の方法はそれぞれ違う点にアプローチしていると考えられた。