[P-KS-33-5] 不動化したラットヒラメ筋における伸張性の変化とコラーゲンの動態との関連性
Keywords:不動, 伸張性, 線維化
不動状態に曝された骨格筋はその伸張性が低下し,筋性拘縮に発展することが知られている。そして,これまでの自験例の結果では,筋性拘縮の主要な病態にコラーゲンの過剰増生に伴う線維化の発生・進行が関与することが明らかになっている。しかし,不動に伴う骨格筋の伸張性の変化とコラーゲンの動態を同時に検索した報告はこれまでになく,両者の詳細な関連性は明らかになっていない。そこで,本研究では不動化したラットヒラメ筋を検索材料に用い,伸張性の指標である他動張力の変化とコラーゲンの動態を生化学・分子生物学的手法で検索し,両者の関連性を検討した。
実験動物には8週齢のWistar系雄性ラット65匹を用い,両側足関節を最大底屈位で1,4,12週間ギプスで不動化する不動群(計33匹)と同期間,通常飼育する対照群(計32匹)に振り分けた。各不動期間終了後はヒラメ筋を採取し,その一部の試料は以下の方法で伸張性の指標である他動張力の検索に供した。すなわち,0.1mm/secの速度でヒラメ筋を他動的に伸張させ,その際の張力を測定し,解析ソフトを用い,張力が発揮される筋長(Slack Length,1.0 Ls)から1.4倍にあたる筋長(1.4 Ls)における他動張力を算出した。また,この検索後はヒラメ筋を生化学的検索に供し,単位乾燥重量あたりのコラーゲン含有量を算出した。加えて,一部の試料は分子生物学的検索に供し,タイプI・IIIコラーゲンのmRNA発現量を定量化した。
不動群の他動張力は各不動期間とも対照群より有意に高値を示し,これは不動期間依存的に有意な増加を認めた。また,不動群のコラーゲン含有量も各不動期間とも対照群より有意に高値を示したが,不動期間で比較すると不動4,12週は不動1週より有意に高値を示すものの,不動4週と12週の間には有意差を認めなかった。ただ,他動張力とコラーゲン含有量の間には有意な正の相関関係が認められた。加えて,不動群のタイプI・IIIコラーゲンmRNA発現量はいずれも各不動期間において対照群より有意に高値を示したが,不動期間で比較するとタイプIコラーゲンmRNA発現量のみ不動4,12週が不動1週より有意に高値を示し,不動4週と12週の間には有意差を認めなかった。
今回の結果から,他動張力とコラーゲン含有量の間には有意な正の相関関係を認め,このことはコラーゲンの増生に伴う線維化の進行と相まって骨格筋の伸張性が低下することを示唆している。そして,線維化の進行にはタイプIコラーゲンの増生が強く影響していることも明らかとなった。しかし,他動張力は不動期間依存的に有意な増加を認めるものの,コラーゲンの動態は不動4週と12週の間に有意な変化は認められなかった。つまり,不動期間の延長に伴う伸張性低下の進行はコラーゲンの量的変化だけでは説明がつかず,この点を明らかにすることが今後の課題である。