[P-KS-36-6] 麻痺側前肢への集中的リハビリテーションによる運動機能の改善は皮質赤核路を介して生ずる
キーワード:赤核, 皮質脊髄路, 運動野
【はじめに,目的】
脳血管障害後の麻痺側上肢に対する有効なリハビリテーション法の開発はセラピストにとって喫緊の課題であり,その為には正確な代償機構を把握することが肝要である。本報告ではモデル動物を用いた検討を行い,麻痺肢へのリハビリテーションが傷害された中枢神経系の再編においてどのような作用を及ぼすかを捉えることを目的とする。
【方法】
Wistar系雄ラットを用い,内包部にcollagenaseを注入し内包出血モデルを作成する。出血後1-8日目においてラットの非麻痺肢を拘束し,麻痺肢を集中的に使用させる。運動機能(リーチ機能)への影響を出血後12および28日に評価する。並行して皮質内微小刺激法による運動野のマッピングを出血前および出血後1,10,26日に実施する。出血後30日に運動野に神経トレーサーであるbiotin dextran amine(BDA)を注入し,3週間後に脳を取り出し,運動野からの軸索投射の分布を観察する。特定の脳領域に対し新たな軸索投射が見られた場合,同経路の選択的な機能遮断を行い,運動機能への影響を確認する。具体的には,豊富に軸索投射がみられた部位にレンチウイルスベクター(NeuRet-TRE-EGFP.eTeNT)を注入し,引き続いて運動野にアデノ随伴ウイルスベクター(AAV1-CaMKII-rtTAV16)を注入する。これにより,両ウイルスベクターに感染した神経細胞では,ドキシサイクリン投与に反応しテタヌストキシンが産生され,シナプス伝達が遮断される。十分に感染が生じた後,ドキシサイクリンを経口投与し経路を遮断すると共に運動機能の評価を行う。
【結果】
麻痺肢の集中的な使用により,リーチ機能の有意な改善を認めた。出血同側の運動野における麻痺肢の体部位再現マップに関し,集中使用後にはマップの明らかな拡大が確認された。加えて,同側の赤核において多数のBDA陽性線維およびシナプスボタンが観察された。以上より,麻痺肢の集中使用により皮質から赤核への投射が増大した事が示唆された。この皮質―赤核投射を選択的に機能遮断したところ,麻痺肢の集中使用によりいったん改善したリーチ機能が,再び著明に悪化した。
【結論】
内包出血モデルにおける麻痺肢の集中的な使用は,出血同側の皮質赤核路を増強し運動野の再編を生じた。選択的遮断法により,同経路が前肢の運動機能回復に対し因果関係を有することが証明された。これらの結果は,皮質脊髄路に代わる皮質―脳幹―脊髄経路のrecruitmentを強く示唆するものであり,リハビリテーションの作用機序に対する考察において重要な知見であると考える。
脳血管障害後の麻痺側上肢に対する有効なリハビリテーション法の開発はセラピストにとって喫緊の課題であり,その為には正確な代償機構を把握することが肝要である。本報告ではモデル動物を用いた検討を行い,麻痺肢へのリハビリテーションが傷害された中枢神経系の再編においてどのような作用を及ぼすかを捉えることを目的とする。
【方法】
Wistar系雄ラットを用い,内包部にcollagenaseを注入し内包出血モデルを作成する。出血後1-8日目においてラットの非麻痺肢を拘束し,麻痺肢を集中的に使用させる。運動機能(リーチ機能)への影響を出血後12および28日に評価する。並行して皮質内微小刺激法による運動野のマッピングを出血前および出血後1,10,26日に実施する。出血後30日に運動野に神経トレーサーであるbiotin dextran amine(BDA)を注入し,3週間後に脳を取り出し,運動野からの軸索投射の分布を観察する。特定の脳領域に対し新たな軸索投射が見られた場合,同経路の選択的な機能遮断を行い,運動機能への影響を確認する。具体的には,豊富に軸索投射がみられた部位にレンチウイルスベクター(NeuRet-TRE-EGFP.eTeNT)を注入し,引き続いて運動野にアデノ随伴ウイルスベクター(AAV1-CaMKII-rtTAV16)を注入する。これにより,両ウイルスベクターに感染した神経細胞では,ドキシサイクリン投与に反応しテタヌストキシンが産生され,シナプス伝達が遮断される。十分に感染が生じた後,ドキシサイクリンを経口投与し経路を遮断すると共に運動機能の評価を行う。
【結果】
麻痺肢の集中的な使用により,リーチ機能の有意な改善を認めた。出血同側の運動野における麻痺肢の体部位再現マップに関し,集中使用後にはマップの明らかな拡大が確認された。加えて,同側の赤核において多数のBDA陽性線維およびシナプスボタンが観察された。以上より,麻痺肢の集中使用により皮質から赤核への投射が増大した事が示唆された。この皮質―赤核投射を選択的に機能遮断したところ,麻痺肢の集中使用によりいったん改善したリーチ機能が,再び著明に悪化した。
【結論】
内包出血モデルにおける麻痺肢の集中的な使用は,出血同側の皮質赤核路を増強し運動野の再編を生じた。選択的遮断法により,同経路が前肢の運動機能回復に対し因果関係を有することが証明された。これらの結果は,皮質脊髄路に代わる皮質―脳幹―脊髄経路のrecruitmentを強く示唆するものであり,リハビリテーションの作用機序に対する考察において重要な知見であると考える。