第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P10

Fri. May 27, 2016 3:20 PM - 4:20 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-10-1] 2型糖尿病,糖尿病性神経障害の合併が人工膝関節全置換術4週間後の身体機能の回復に及ぼす影響

池上泰友1, 井上健太1, 中田みずき1, 吉岡菜月1, 佐々木弘樹1, 中西雅哉1, 清水富男2 (1.愛仁会千船病院技術部リハビリテーション科, 2.愛仁会千船病院診療部リハビリテーション科)

Keywords:糖尿病性神経障害, 2型糖尿病, 人工膝関節全置換術

【はじめに・目的】

生活習慣病としての糖尿病者数はなお増加の一途であり,一方高齢化に伴い変形性膝関節症(OA)による人工膝関節全置換術(TKA)を受ける患者数も増加している。糖尿病者の下肢筋量と筋力は非糖尿病者と比較して低下していることが知られているが,これは高血糖が続くことで筋量の減少をもたらし,また早期から出現する糖尿病性神経障害(Diabetic polyneuropathy:DPN)が筋力低下に関与していると考えられている。しかし,このような糖尿病やDPNがTKA術後の回復に影響があるのかについては十分検討されていない。そこで本研究では,OA患者に合併している2型糖尿病とDPNはTKA術後の身体機能の回復に影響するのかを検討したのでここに報告する。

【方法】

対象は2014年4月~2015年9月までにOAを原疾患としたTKAを施行した患者97名(男性23名,女性74名,平均年齢72.3±9.7歳)とした。除外基準は,両側同時にTKAを施行した者,認知障害を有する者,歩行に影響を及ぼす疾患の有する者とした。調査項目はBMI,CRP,入院期間,手術翌日・退院時血糖値とし,等尺性膝伸展筋力/体重(下肢筋力),膝関節可動域,10m最大歩行時間を手術前と4週間後に調査した。下肢筋力は,徒手筋力計(Tas F-1,アニマ社)を用いて測定した。分析は,2型糖尿病のない者を非DM群,2型糖尿病を合併している者をDM群,DPNと医師により診断された者をDPN群として群分けを行った。統計的解釈として,4週間後の値を手術前の値から除して変化率を算出し,3群間の各項目の比較は一元配置分散分析およびbonferroniの多重比較検定を行った。データの統計解析には,SPSS(ver.22)を用い,危険率5%未満を有意とした。

【結果】

非DM群は67名,DM群は16名(罹患期間8.1±5.1年),DPN群は14名(罹患期間9.1±5.2年)であり,年齢,性別,BMIによる有意な差は認めなかった。下肢筋力の変化率は,非DM群83.2±32.4%,DM群81.4±37.1%,DPN群74.2±12.2%であった。歩行の変化率は,非DM群104.9±37.2%,DM群117.2±49.8%,DPN群117.6±23.3%であった。多重比較検討の結果,手術翌日血糖値は3群間で有意差を認め,非DM群よりDM群,DPN群が有意に高値を示した。その他の項目は3群間で有意な差は認めなかった。

【結論】

血糖値はTKA翌日の2型糖尿病者,DPN患者で有意な上昇を認めたが,退院時に下がり先行研究と同様の結果を得られた。一方,TKA4週間後での身体機能の回復は,非糖尿病者と比較して2型糖尿病,DPNの合併による有意な差はなく今回の検討では影響はないことが示唆された。しかしながら,足関節周囲筋の筋力低下を呈することや手術後の疼痛の回復が遅れることは報告されており,今回統計的な差はなかったがDPN患者の身体機能の回復は悪かったことから積極的なアプローチが望ましいと考える。今後は,長期間の調査,糖尿病性神経障害の程度を考慮して検討する必要があると考える。