第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P10

Fri. May 27, 2016 3:20 PM - 4:20 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-10-2] 脛骨近位巨細胞腫により腫瘍用人工膝関節置換術を施行した一症例

中島彩 (医療法人社団善衆会善衆会病院)

Keywords:腫瘍用TKA, 大腿四頭筋, 腓腹筋弁

【はじめに,目的】

脛骨近位部の骨腫瘍においては,広範切除により骨・関節欠損の他,膝蓋靱帯も合併切除される。これに対し,腫瘍用人工膝関節置換術(以下腫瘍用TKA)に伴う膝伸展筋機構の再建が必要となる。膝伸展機構の再建については,人工関節の被覆も可能な腓腹筋弁を使用することも多い。

今回,脛骨近位巨細胞腫による骨腫瘍広範切除及び腫瘍用TKAを施行した症例を経験した。再建された膝伸展機構に着目した理学療法介入によりADL向上を図れたため報告する。

【方法】

症例は30歳代女性。悪性骨巨細胞腫と診断を受け,脛骨近位骨腫瘍広範切除及び腫瘍用TKAを施行した。膝伸展機構の再建は,膝蓋腱を脛骨側インプラントに縫着した上で,前方移行した腓腹筋弁でインプラントを覆い膝蓋腱とも縫着を行った。閉創できなかった腓腹筋弁の表層に植皮を行い,大腿骨遠位のインプラントは大腿四頭筋を引き下げ,腸脛靱帯を前方移行する事で被覆した。後療法は術後3週までニーブレス固定,その後関節可動域(以下ROM)練習開始であった。

術後2週に当院へリハビリ目的で転院となった。転院時はサークル歩行自立レベル,膝の疼痛はなかったが,歩行時にtoe clearanceが低下し,外果前方の疼痛のため長距離歩行困難であった。ROMは足関節背屈20/-5°,底屈50/45°であり,背屈時に外果前方に疼痛を認めた。膝蓋骨は全方向でmobilityを認めず,健側と比較して2横指低位であった。理学療法介入は足関節ROM-ex,下肢筋力トレーニング(大腿四頭筋の筋力トレーニングはsettingから開始し,術後9週よりleg extension開始),術後3週から膝ROM-exを実施した。

【結果】

術後13週でサポーター装着下独歩,階段昇降2足1段自立にて退院となった。術後4週で足関節ROMは背屈20/15°,底屈50/50°,疼痛が消失し長距離歩行可能となった。膝伸展筋力の回復は難渋したが,退院時にはextension lag10°に改善した。膝関節ROMは0/60°であったが屈曲動作はスムーズとなった。歩行は患側遊脚期の膝屈曲やtoe clearance低下が改善され,安定性が増大した。

【結論】

本症例はTKA施行に伴い膝蓋腱を切離しており,インプラントへの縫着までsettingを行っていたがhamstrings優位であり,大腿四頭筋の早期筋力向上は乏しかった。また,インプラント被覆のための操作により膝蓋骨低位であり,介入当初から大腿四頭筋への温熱療法や膝蓋骨のmobilization,創部軟部組織のmobilizationを行っていたが,膝蓋骨mobility向上が見込めず屈曲ROM拡大に難渋した。

leg extensionにより大腿四頭筋優位の筋収縮が得られ,extension lag10°まで筋力向上を認めた。また,筋収縮に伴う膝蓋骨の上方移動は膝蓋骨mobilityを向上させ,膝屈曲ROMは拡大した。

膝蓋腱のインプラント逢着後,積極的に大腿四頭筋優位の筋力トレーニングを行った。大腿四頭筋の筋力向上や膝ROMの拡大が,歩行安定性の増大や階段昇降の獲得等のADL向上へ至った。