第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P10

2016年5月27日(金) 15:20 〜 16:20 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-10-3] 3次元骨モデルを用いたCRTKAにおけるPCL付着部残存率の検討

脛骨骨切り量と後方傾斜の影響

伊能良紀1, 冨田哲也1, 二井数馬2, 藤戸稔高1, 河野賢一1, 吉川秀樹2, 菅本一臣1 (1.大阪大学大学院医学系研究科外科系臨床医学専攻運動器バイオマテリアル学講座, 2.大阪大学大学院医学系研究科外科系臨床医学専攻器官制御外科学講座)

キーワード:人工膝関節, 後十字靭帯, 後十字靭帯付着部

【目的】後十字靭帯温存型人工膝関節全置換術(CR TKA)後に温存されたPosterior Cruciate Ligament(PCL)の両線維(Antero Lateral Bundle(ALB),Postero Medial Bundle(PMB))は,術後に機能することを前提としているが,posterior stabilized TKAと比較すると屈曲可動域の低下や,深屈曲時のroll backの再現性が劣る報告がある。CR TKAのPCL付着部は,bone islandにて温存することが推奨されるが,PCL付着部に関係なくフラットに骨切りすることも珍しくない。そこで3次元(3D)脛骨骨モデルを用いCR TKA時の骨切りシミュレーションを行い,ALB・PMBの付着部の残存率を3D的に調査・検討した。


【方法】対象は内側型変形性膝関節症患者34膝とした。脛骨の3DCTモデル,PCLを含めた脛骨3DMRIモデルを作成し,両モデルを使用しsurface registrationを行い,PCL付着部を定め,面積を算出した。ALB・PMBの同定は付着部の骨形態を参考に面積を算出した。脛骨3DCTモデルの骨切りは,外側関節面の中心から遠位8mm及び10mm,脛骨後方傾斜(後方傾斜)0,3,5,7,10度とした。残存率は骨切り後に残存したALB・PMB付着部面積を,骨切り前のALB・PMB付着部面積にて除した値とした。統計は,骨切り8mmにおけるALB・PMBの後方傾斜角度それぞれの比較を多重比較検定,ALBとPMBの骨切り8mmと10mmの比較を対応のあるt検討を用いた(p<0.01)。


【結果】骨切り8mmにおけるALBの残存率は,後方傾斜0,3,5,7,10度では17.2±20.1,9.9±14.7,6.3±11.0,3.6±7.8,1.4±4.1%,PMBの残存率はそれぞれ87.7±14.2,79.1±19.1,72.4±21.9,64.9±24.3,52.5±26.1%であった。骨切り10mmのALB残存率は,後方傾斜0,3,5,7,10度では3.5±7.8,1.2±3.8,0.5±1.9,0.2±0.9,0.0±0.1%,PMBの残存率はそれぞれ,65.8±24.2,54.0±25.1,46.0±24.6,38.1±23.2,26.8±20.6%であった。骨切り8mmにおけるALBの各後方傾斜角度それぞれの比較は0度と7,10度,PMBは0度と5,7,10度,3度と10度,5度と10度に有意差が認められた。ALBとPMBにおける骨切り8mmと骨切り10mmの比較は,ALBでは後方傾斜角度0,3,5,7度,PMBでは全ての後方傾斜角度において骨切り10mmが有意に残存率が小さかった。


【結論】脛骨3DCTモデルを用いたCR TKAにおける骨切りシミュレーションでは,後方傾斜が増大するにつれてALB・PMB付着部が減少し,ALBの残存率は著しく低下することが示唆された。温存されたPCL各線維に期待されている機能は,ALBが大腿骨の回旋軸,PMBが深屈曲時の脛骨のposterior translationの抑制である。今回の結果とALB・PMBの機能を考えると,ALB付着部が切除された場合は膝関節屈曲時に大腿骨の回旋が減少し,両線維の付着部が切除される場合にはparadoxical anterior movementが生じると考えられる。以上から,CR TKA後のPCL付着部残存率は術前のPCL付着部と異なるため,術後リハビリテーションを行う際には残存したPCLを考慮し,リハビリテーションを実施する必要がある。