第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P13

Fri. May 27, 2016 4:30 PM - 5:30 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-13-4] 下部体幹筋の収縮の有無が歩行時の体幹および骨盤動揺に与える影響

加速度・角速度センサを用いての検討

西村圭二1, 南部利明1, 後藤公志2, 杉本正幸3, 山﨑敦4 (1.市立長浜病院リハビリテーション技術科, 2.京都大学医学部附属病院整形外科, 3.市立長浜病院整形外科, 4.文京学院大学保健医療技術学部理学療法学科)

Keywords:下部体幹筋, 歩行, 加速度・角速度センサ

【はじめに】変形性股関節症(以下股OA)患者の歩行では,立脚中期から後期において体幹前傾や患側への体幹側屈など股関節伸展を腰椎や骨盤で代償する場合がある。原因として,股関節伸展可動域制限,殿筋筋力低下,下部体幹筋安定性低下などが挙げられる。先行研究において,下部体幹筋収縮の意識により,歩行立脚期を想定した前方へのステップ動作にて骨盤および体幹前傾減少,股関節伸展角度増加など代償の抑制に関与することを報告した。今回,実際の歩行において下部体幹筋収縮の有無が体幹および骨盤動揺に与える影響について検討したので報告する。

【方法】対象は健常成人10名(平均年齢33.3±7.1歳,身長173.6±2.4cm)で,股関節伸展,外転可動域および大殿筋,中殿筋筋力が正常である者とした。計測には体幹2点歩行動揺計MVP-WS2-S(マイクロストーン社製)を用いて,小型無線モーションセンサを体幹(第9胸椎部)と骨盤(仙骨後面で両上後腸骨棘を結ぶ線の中央)に各々取り付けた立位とし,快適な速度での10m歩行を指示した。これを下部体幹筋収縮を意識しない状態と意識した状態で各々実施した。計測前に2回歩行練習をした。下部体幹筋収縮を意識付けるために,まず股膝関節60°屈曲位でのハーフカットストレッチポール上端座位にて頭尾側方向への体幹伸展を10回促した。さらに両脚立位でも同様に頭尾側方向に体幹伸展する動作を10回実施した。この際の腹横筋の収縮を触診にて確認した。同様の計測を股OAによるTHA術後3週(退院時)で術側立脚期に体幹側方動揺を視覚的に確認できる患者5名にも実施した。得られたデータから10m歩行中の歩行周期3区間における体幹および骨盤の前後,上下,左右動揺幅を各々平均化して算出し,下部体幹筋収縮意識の有無による動揺変化を比較した。統計処理は対応のあるt検定を用い,危険率5%未満とした。

【結果】健常成人の体幹では上下動揺にて意識無48.8±7.1mm,意識有51.8±6.5mmと有意な増加を認めた(p<0.05)。前後,左右では有意差はなかった。骨盤では前後,上下,左右とも意識の有無による動揺幅の有意差は見られなかった。THA術後患者は意識無にて術側立脚期に術側方向への体幹側方動揺が生じ左右幅増大を認めたが,意識有にて上下動揺幅が増大し動揺の軌跡が左右対称に近づく傾向を示した。

【考察】頭尾側方向へ積極的に体幹を伸展することで腹横筋の活動が高まり,腹腔内圧が上昇し腰椎安定化作用が得られるとされる。健常成人に明らかな跛行は見られなかったため,意識の有無による著明な変化はなかったが,収縮意識が頭尾側方向であることからTHA術後患者では側方動揺の抑制につながり,左右対称的な動揺に近づいたと考える。また,上下動揺幅増大は立脚中期から後期の前方推進力増大にも影響することが推測される。したがって,下部体幹筋収縮を意識することは歩容改善の一助となる可能性が示唆された。