第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P24

Sat. May 28, 2016 2:50 PM - 3:50 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-24-1] 筋緊張改善によるバランス・歩行能力への影響

永野裕也 (医療法人社団SEISEN清泉クリニック整形外科)

Keywords:筋緊張, 柔軟性, バランス能力

【はじめに,目的】

2025年には人口の40.5%が高齢者であるといわれており,すでに直面する超高齢者社会では介護予防が大きな課題となっている。要介護となる要因は運動器障害が最も多く,介護予防には高齢者の運動器障害への対策が急務である。運動器障害による要介護の状態やリスクを表す概念として,日本整形外科学会より運動器症候群(ロコモティブシンドローム,以下:ロコモ)が提唱されている(2007)。ロコモは筋力・バランス・歩行能力の機能障害が相互に関与しながらマルチプルリスクファクターとなり,生活活動制限,QOL低下,介護が必要な状態と関連する。今回,ロコモの機能障害であるバランス・歩行能力に着目し,我々理学療法の分野にて様々な場面で問題点として取り上げられる筋緊張の改善がおよぼす効果について調査することを目的とした。

【方法】

対象は,要支援1から要介護1までの介護認定者18名(平均年齢81.44±4.52歳,男性2名・女性16名)とした。筋緊張の緩和には,筋刺激量の定量化にウォーターベッド(製品名アクアタイザー:ミナト医科学株式会社)を使用し,既存の全身用プログラム(仙骨部,殿部,腰部,胸部)にて20分間実施した。実施前後での指床間距離(以下:FFD),開眼片脚立位,タンデム立位,タンデム歩行(3m)の4項目を比較し,統計学的手法には,Wilcoxonの符号付順位検定を用い,有意水準は5%未満とした。

【結果】

FFD:実施前-0.83±8.9cm,実施後2.7±9.1cm(P<0.05),開眼片脚立位:実施前5.1±6.7秒,実施後7.8±8.4秒(P<0.05),タンデム立位:実施前9.4±10.6秒,実施後16.3±12.1秒(P<0.05)と,3項目に有意な改善が認められた。タンデム歩行:実施前6.8±8.8秒,実施後7.4±7.6秒と有意差は認められなかった。タンデム歩行に関しては実施不可の対象者もあり,実施可能であった8名では実施前15.3±6.1秒,実施後13.2±5.0秒(P<0.05)と有意な改善が認められた。

【結論】

小沼らはウォーターベッド型マッサージの効果は,皮膚の機械的受容器からの求心性インパルスによるα運動ニューロンの興奮性の抑制が生じ,筋緊張緩和ができると述べており,FFD改善は筋緊張の緩和による結果であると捉えることができる。本調査から,筋緊張の緩和はバランス・歩行能力の改善に有効な手段であることが示唆された。高齢者を対象とした調査では,長座体前屈とバランス・歩行能力には関連性を認めないとの報告があるが,それぞれの機能における横断的研究による結果であり,介入後の縦断的研究は非常に少ない。今回の結果は,柔軟性の改善,つまり筋緊張の緩和が,バランス・歩行能力という機能の改善に関与することを示唆しており,運動器不安定症等の転倒予防にも効果を期待できると考える。今後は縦断的介入による調査を実施したい。