第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P30

2016年5月29日(日) 11:10 〜 12:10 第10会場 (産業振興センター 2階 セミナールームB)

[P-MT-30-4] 長期経過を辿る変形性肩関節症の一例

―安静時痛と夜間痛の病態整理と運動療法―

松平兼一 (富永草野クリニックリハビリテーション科)

キーワード:変形性肩関節症, 癒着, 肩甲骨アライメント

【はじめに,目的】

変形性肩関節症(以下,肩OA)の罹患頻度は,膝関節や股関節と比較すると少ない傾向にあるが,臨床ではしばしば経験する。運動療法(以下,PT)は一般的に可動域や筋力の改善を目的として施行される。今回,肩甲胸郭関節(以下,STJ)の拘縮と肩峰下の癒着性拘縮を除去した結果,安静時痛および夜間痛の改善が得られたため,考察を加えて報告する。


【方法】

症例は80歳代の女性である。平成25年に肩OAと診断され,保存的治療を行なっていたが改善を認めず,平成27年9月1日よりPTが処方された。単純X線像にて肩峰下の骨棘形成,肩峰および上腕骨大結節の骨硬化,上腕骨頭の変形を認めた。関節内水腫,腫脹や熱感といった所見は陰性だが,安静時痛および夜間時痛を上腕上外側部,運動時痛を肩関節付近に認めた。圧痛は棘上筋,棘下筋,小円筋,小胸筋,鎖骨下筋,前鋸筋上部線維,肩甲挙筋に認めた。関節可動域はいずれも肩甲骨固定下にて,屈曲85°,外転80°,下垂位内旋75°/外旋25°,内旋位内転-25°/外旋位内転-35°,内旋位伸展55°/外旋位伸展45°であり,超音波診断装置(以下,エコー)にて肩峰下の癒着所見を認めた。肩甲骨アライメント(以下,SA)を対比すると軽度前方突出および下方回旋位を呈していた。肩関節に関する徒手検査ではDrop arm signおよびPainful arc signは陰性,Impingement signは陽性,胸郭出口症候群(以下,TOS)に関してはWright testおよびEden testは陰性,Morley testは陽性,上肢下方牽引テストで誘発され,上肢保持テストで軽快した。PTではSTJの拘縮除去を図った後,肩峰下の癒着性拘縮に対して積極的に剥離操作を施行した。


【結果】

肩関節内転制限およびSTJの拘縮改善に伴い,徐々に夜間痛および安静時痛の軽減を認め,PT開始からおよそ2ヵ月で消失に至った。なお,この時点におけるエコーにて癒着性拘縮は改善傾向にあった。


【結論】

肩OAは一般的に運動時痛を主訴とするが,本症例は安静時痛および夜間痛を主訴としており,理学所見から変性以外の要素として軟部組織性の拘縮や,SA変化の関与を考えた。肩峰下の癒着性拘縮は肩甲上腕関節(以下,GHJ)の内転制限因子になると同時に,肩峰下圧の上昇を招いて夜間痛の原因となる。また,肩甲骨は代償的に軽度前方突出および下方回旋位をとることで腕神経叢に牽引ストレスを与え,牽引型TOSを惹起し安静時痛の要因となったものと考えた。PTにてSTJの拘縮除去と肩峰下の癒着を剥離した結果,GHJの内転可動域の改善により夜間痛が,SAの修正および内転可動域の増大に伴い安静時痛が改善したと考察した。肩OAは変性疾患であり,慢性的に経過するため様々な病態が混在する。変性を認めても病態を応じたPTにて症状の改善が得られる可能性が示唆された。