第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P33

2016年5月29日(日) 10:00 〜 11:00 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-33-4] 大腿骨近位部骨折術後患者のADL獲得状況別にみた認知機能,痛み,抑うつ,活動量の経過と特徴

吉村彩菜1, 片岡英樹1,2, 後藤響1,2, 山下潤一郎1, 池本竜則3, 坂本淳哉4, 中野治郎4, 沖田実2 (1.長崎記念病院リハビリテーション部, 2.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科リハビリテーション科学講座運動障害リハビリテーション学分野, 3.愛知医科大学運動療育センター, 4.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科理学・作業療法学講座理学療法学分野)

キーワード:大腿骨近位部骨折, ADL, 活動量

【はじめに,目的】大腿骨近位部骨折(hip fracture;以下,HF)は,高齢者のADL能力の低下をもたらす脆弱性骨折の一つであり,術後のリハビリテーション(術後リハ)では,ADL能力の獲得が主目標となる。一方,HF術後のADL能力の獲得を妨げる因子として,認知機能の低下や痛みの強さ,抑うつ傾向,身体活動量の低下などが報告されている。しかし,これらの因子を検討した報告の多くは術後2週以内で評価されており,経時的変化を調査した報告は少なく,術後リハの実施により改善が得られているか否かも明らになっていない。そこで,本研究では,上記の各因子の経時的変化からADL能力の獲得が不十分なHF術後患者の特徴を明らかにするとともに,現状の術後リハの効果と限界を把握することを目的に後方視的調査を行った。


【方法】対象は,HFを受傷後に手術が施行された22例(平均年齢:82.1±7.5歳)で,全例受傷前歩行が自立しており,活動量の測定に同意が得られ,重大な合併症がなかった患者とした。基本情報として,年齢,性別,骨折タイプ,受傷前のADL(bartel index)・歩行補助具,術後病棟内歩行開始日数を調査した。評価項目は,身体活動量,functional independence measure(FIM)の運動項目(mFIM),安静時痛・動作時痛のverbal rating scale(VRS),抑うつ(geriatric depression scale-15;以下,GDS-15),認知機能(mini-mental state examination;以下,MMSE)とした。身体活動量は対象者に術翌日から単軸活動量計(Lifecorder GS,Suzuken)を非術側の上前腸骨棘付近に装着してもらい,歩数と1~3 Metsの合計活動時間(低強度活動時間)を算出した。なお,各評価項目は術後1週,2週,4週,8週で評価した。分析として,術後8週目のmFIMが78点未満の者を介助群(11例),78点以上の者を自立群(11例)とし,各項目を比較した。統計処理には対応のないt検定,Χ二乗検定,二元配置分散分析を適用し,有意水準は5%未満とした。


【結果】基本情報において,術後病棟内歩行開始日数は介助群が自立群に比べ有意に遅延していた。次に,MMSE,GDSは交互作用ならびに時間経過の主効果は認められなかったが,ADL獲得状況では主効果を認め,介助群が常に不良な成績であった。また,安静時痛・動作時痛は交互作用ならびにADL獲得状況での主効果は認められなかったが,時間経過の主効果は認められ,両群とも時間経過とともに改善していた。加えて,歩数と低強度活動時間については交互作用を認め,術後4週~8週において介助群が自立群に比べ有意に低値であった。


【結論】今回の結果から,ADL能力の獲得が不十分なケースでは認知機能の低下や抑うつの改善が得られにくく,歩行開始日の遅延も相まって,身体活動量の向上が得られづらいことが特徴としてあげられた。以上のことは現状のリハ効果の限界と考えられ,これらの因子の改善が得られにくいケースに関しては,リハアプローチと並行して退院後の生活支援等に関する早期からの対策が不可欠であることが示唆された。