第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P36

Sun. May 29, 2016 10:00 AM - 11:00 AM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-36-2] 胸郭に対する運動療法の即時的効果の検討

重心動揺とOtt Testを用いた胸郭柔軟性の観点から

稲吉直哉, 松田あゆみ, 小野内雄, 菅原梓 (福岡県済生会大牟田病院)

Keywords:胸郭柔軟性, 運動療法, 重心動揺

【はじめに,目的】

近年,胸郭を運動器として捉えたアプローチが確立され,その効果に対するエビデンスも報告されている。胸郭は臓器保護,荷重伝達,呼吸,可動性という機能を有し,加えて上半身重心が存在しており,身体重心位置決定にも影響を及ぼす重要な部位である。また最近の報告では胸郭の前額面および矢状面でのアライメント異常に起因した姿勢不良により,様々な機能不全を引き起こす要因になると報告されている。その機能不全に対する胸郭の運動療法施行後の即時効果も疼痛,可動域,筋力,さらに自律神経の側面からRegional independence理論として立証され,我々も効果を実感している。しかし,胸郭に対する運動療法の定量的な研究は少なく,運動療法が身体にどのような影響を及ぼすのか解明されていない。そこで今回,胸郭に対する運動療法が運動療法前後の重心動揺と胸郭柔軟性の関係を検証した。


【方法】

対象は下肢,体幹に障害既往がない20歳代の健常男性13名とした。運動療法施行前後に胸郭柔軟性と重心動揺を測定した。胸郭柔軟性の評価指標としてOtt Testを使用した。Ott Testは1)直立姿勢で第7頸椎棘突起(以下C7)とC7から30cm下方をマーク,2)体幹最大屈曲位で2点間距離をメジャーで測定した。重心動揺は重心動揺計(アイソン株式会社製)を用いた。測定方法は重心動揺計上で開眼,裸足の直立姿勢を指示し重心動揺を測定した。なお,聴覚や視覚刺激による偏位を生じない様な環境設定に留意した。運動療法の実施肢位はレッドコードを用いて背臥位で股関節,膝関節90度屈曲位とした。その際,腰椎前弯を保持するよう腰椎下部にタオルを敷いた。胸郭可動性改善のためレッドコードのサスペンションポイントは肩関節部に設定した。弾力性のあるエラスティックコードを用い,胸郭最大後弯するまで他動的に肩甲骨外転させ,その後,胸椎伸展を意識させながら肩甲骨内転させる運動を1分間反復させた。統計処理にはSPSSを用い,重心動揺と胸郭柔軟性の関係にはpearsonの相関係数,運動療法前後の比較には対応のあるt検定を用いた。有意水準はいずれも5%未満とした。


【結果】

1)運動療法前では重心動揺と胸郭柔軟性に相関は認められなかった。2)運動療法後では胸郭柔軟性と単位時間軌跡長(r=-0.629,P<0.05),X軸速度(r=-0.658,P<0.05)に中等度の負の相関が認められた。3)運動療法前後で有意差は認めなかった。


【結論】

運動療法後で胸郭柔軟性と単位時間軌跡長,X軸速度に負の相関が認められた。運動療法は筋スパズムが引き起こされている筋に対し収縮と弛緩を反復させ,局所的筋血流を改善させながら,筋のリラクセーションを得ることができるとの報告がある。筋スパズムの正常化により胸郭の各関節運動が円滑になり重心動揺速度への影響を示唆した。胸郭の拡張差や胸椎アライメントへ与える影響も検討が必要であるが,今後の検討課題としたい。