第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P38

2016年5月29日(日) 11:10 〜 12:10 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-38-2] 肩関節可動域制限に対して解剖頸軸回旋を用いた関節可動域運動が有効であった症例

京地拓也1, 松澤良2, 岡嵜誉1 (1.春日井市民病院, 2.春日井市民病院)

キーワード:解剖頸軸回旋, 肩関節, 関節可動域

【はじめに,目的】

解剖頸軸回旋とは上腕骨解剖頸と肩甲骨臼蓋面を平行に位置させ,その平面上で上腕骨頭を回旋させる運動方法である。したがって大結節は烏口肩峰アーチをくぐることが無いため,第二肩関節に痛みを引き起こさないまま,関節包を全周性にストレッチングすることが可能となる。しかし解剖頸軸回旋が可動域改善に有用であったとの報告は少ない。今回,解剖頸軸回旋を用いたことで関節包の伸張性改善を図ることができた症例を経験する機会を得たため,ここに報告する。

【方法】

〈症例情報・経過〉40歳代男性,職業は新聞配達業。バイク運転中に乗用車と衝突し右鎖骨遠位端骨折を受傷した。受傷後5日,当院にて観血的骨接合術を施行され,当院退院後は近医へ紹介となった。近医で外来理学療法(以下 リハビリ)を約3か月間実施したが,可動域制限が改善されなかったため,手術後100日より当院でのリハビリが開始となった。

〈評価〉視診・触診や他動的な運動で明らかな肩周囲筋の短縮や過緊張は認められなかったが,肩甲帯の代償動作が早期から生じており,肩関節屈曲80°,肩甲上腕関節(以下GH)外転50°と著明な可動域制限を認めた。運動時,肩関節後方の深部にNRS10の疼痛を訴えており,肩周囲筋のMMTは疼痛の影響もあり段階2,JOA scoreは52点であった。肩周囲筋の所見,代償動作,運動時の疼痛,GHの可動域制限を踏まえ,下方および後方関節包の伸張性低下を原因とした肩関節可動域制限であると判断した。

〈内容〉リハビリは週1~2回通院(1単位/日)していただき,主に解剖頸軸回旋を用いた関節可動域運動(以下ROMex)を施行。加えてセルフエクササイズとしてゴムチューブを用いた筋力強化訓練とストレッチングを指導した。

【結果】

当院リハビリ開始13日で屈曲130°,GH外転70°まで拡大した。リハビリ開始30日目には職場復帰を果たした。リハビリ終了時(当院リハビリ開始123日)には自動屈曲165°,GH外転80°まで拡大した。運動時のNRSは1~2まで軽減し,MMTは全て段階5となりJOA scoreは94.5点まで大幅に改善した。ADL・仕事に支障は無かった。

【結論】

大槻(2013)によると,高齢の凍結肩対象ではあるが,通常のROMexと解剖頸軸回旋を用いたROMexでは後者の方で有意な可動域改善を認めたと報告している。通常のROMexでは筋や他関節の影響を受けやすいため,選択的かつ全周性に関節包をストレッチングすることは困難であるが,解剖頸軸回旋を用いれば,運動を起こす関節はGHのみであり,GHの可動域に直接影響を及ぼす関節包や靭帯に対して選択的かつ全周性にストレッチングすることが可能である。本症例は筋の影響をほぼ受けておらず,関節包由来の可動域制限が中心であったため,解剖頸軸回旋による関節包ストレッチングが有効であったと考える。