第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本運動器理学療法学会 一般演題ポスター
運動器P38

Sun. May 29, 2016 11:10 AM - 12:10 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-MT-38-3] 上肢水平挙上位での体幹回旋運動と広背筋筋膜の滑動性の関連

海沼美咲1, 浅田啓嗣2, 川村和之1,3, 永井一企2,4 (1.須田整形外科, 2.鈴鹿医療科学大学大学院医療科学研究科, 3.国際医学技術専門学校理学療法学科, 4.主体会病院)

Keywords:体幹回旋, 広背筋筋膜, 滑動性

【はじめに,目的】体幹回旋動作は,リーチ動作や寝返り動作など日常生活においては上肢運動を伴うことが多い。体幹背部に起始を持つ広背筋は,上腕骨に付着するため上肢拳上を伴う体幹運動の制限因子となる可能性がある。近年,筋膜の滑動性低下が動作を制限することが報告されており,広背筋筋膜が回旋動作時の体幹や上肢の運動制限因子となることが予想される。本研究の目的は上肢水平挙上位での体幹回旋運動と広背筋筋膜の滑動性との関連を検証することである。

【方法】研究1として上肢水平挙上が体幹回旋可動域に及ぼす影響を検証した。対象は,18歳以上の健常者24名(男性10名 女性14名,身長:161.9±7.4cm 体重:57.4±12.9kg)とした。簡易姿勢計測ジャイロセンサーを胸骨に貼付し,広背筋を伸長した上肢水平挙上位と短縮させた下垂位で左右体幹回旋角度を各々3回測定した。平均値を測定値とし,肢位による差を検討した。研究2として広背筋筋膜の滑動性と体幹可動域の関係を検証した。対象は上肢水平挙上位と下垂位の体幹回旋角度差が,5度未満群(7名11肢)と5度以上群(7名11肢)とした。腹臥位で上肢をベッドから垂らし,肩関節屈曲45度から125度までを他動的に動かし,広背筋・前鋸筋の動態を超音波診断装置で観察した。観察部位は第6~9肋間とし短軸像で撮像した。

【結果】上肢の条件を変えた体幹回旋角度の平均値と標準偏差は,上肢水平挙上位48.25±12.5度,下垂位42.49±11.3度であり,有意な差は認められなかった。この結果より,広背筋の影響の有無に関し,体幹可動域差5度を一つの指標として,広背筋伸長側の筋動態について群間比較を行った。可動域差5度未満群は,運動によって広背筋と前鋸筋間の滑動が観察され,両筋間の筋膜の歪みは観察されなかった。一方5度以上群は両筋間筋膜の歪みが観察された(2名2肢)。肩屈曲運動による前鋸筋の筋厚変化は両群で有意な差が認められ(p<0.05),5度以上群が高値を示した。

【結論】研究1の結果,健常者においては広背筋の筋長が体幹回旋角度に影響を及ぼす因子でないことが示された。研究2より回旋角度差が5度以上ある場合は,広背筋・前鋸筋間筋膜の滑走性に異常が認められた。5度以上群の前鋸筋厚増加は,筋膜の滑動性低下により肩甲骨の代償を強いられ,前鋸筋が短縮位となったためと考えられる。広背筋の線維は前鋸筋と直行するように走行しており,筋膜性の癒着を起こしやすいことが考えられる。本研究における超音波撮像時の運動と体幹回旋運動は異なるが,どちらの条件においても広背筋が伸長・滑動を強いられることから,上肢水平挙上位における体幹回旋可動域の低下に広背筋筋膜の滑動性低下が関わる可能性が示唆された。今後は,肩や体幹に機能異常を有する者に関して調査を進めていく必要がある。