[P-MT-38-4] 手指自動屈曲運動時の手指屈筋の筋活動が正中神経に及ぼす力学的影響
Keywords:正中神経, 可動性, 筋厚
【はじめに,目的】
理学療法では神経の可動性についての論じられることは少ない。神経は筋や靱帯といった体性組織と同様に,身体運動時に伸張したり移動したりする。このような神経の動きの傷害が,痛みや関節可動域制限の原因となる。神経は周囲組織からの外力で受動的に動かされている。神経の動きに関する先行研究は散見されるが,神経とその周囲の筋との関係について検討した報告は無い。そこで本研究は,手指自動屈曲運動時の浅指屈筋及び深指屈筋の筋厚の変化と正中神経の動きの関係について明らかにすることを目的とした。
【方法】
健常成人47名(男性26名/女性21名,年齢36±16歳)を対象とした。超音波画像解析装置で第三指自動屈曲運動時の前腕中央部を撮像し,正中神経の移動距離を測定した。また,正中神経の横断面積及び外周径を測定し,運動前後での変化を検討した。さらに正中神経が浅層方向と深層方向,橈側方向と尺側方向のいずれの方向に移動したかを判定した。各移動方向別に浅指屈筋及び深指屈筋の筋厚変化率を計測し,独立二群のt検定を有意水準5%で検討した。
【結果】
正中神経の移動距離は2.9±1.1mmであった。横断面積は運動前が8.7±4.1mm2,運動時が8.9±4.3mm2で有意な変化はなかった。外周径も運動前が11.5±4.8mm2,運動時が11.8±5.0mm2と有意な変化はなかった。正中神経の移動方向では47名全員が深層方向に移動した。橈側方向へ移動したのは27名,尺側方向へ移動したのは20名であった。浅指屈筋筋厚の変化率は36.9%で増大となり,深指屈筋筋厚は-7.7で減少した。橈側移動群は浅指屈筋の橈側寄りの筋厚変化率が6.8%,尺側寄りの筋厚変化率が20.7%と尺側筋厚が有意に増大し,尺側移動群は浅指屈筋の橈側寄りの筋厚変化率が10.6%,尺側寄りの筋厚変化率が-4%と橈側筋厚が有意に増大した。
【結論】
正中神経は手指屈筋群の活動によって横断方向に押されて移動することによって,過剰な圧迫による神経損傷を防いでいると考えられる。本実験では浅指屈筋が主に活動しており,収縮時に筋厚が増大して正中神経を深層方向へ押し,正中神経の動きを許すように深指屈筋の筋厚が減少したと考えられる。さらに,このような浅指屈筋の収縮による外力から逃れるには,深層方向への移動だけでは不十分で,さらに橈側か尺側のいずれかの方向へ移動していた。その際には浅指屈筋の橈側寄りの筋厚と尺側寄りの筋厚のうち,筋厚の増大が少ない方向へ移動することで圧迫力から逃れ,神経の損傷を防いでいると考えられる。このように正中神経は隣接する筋の収縮によって押し出され,組織の間隙に移動することで神経組織が損傷してしまうような過剰な圧迫とならないように防いでいると考えられる。理学療法を行なう際には,このような神経の機械的機能が症状の一因となっていないかを念頭に置いて,評価と介入を行なうべきであると考えられる。
理学療法では神経の可動性についての論じられることは少ない。神経は筋や靱帯といった体性組織と同様に,身体運動時に伸張したり移動したりする。このような神経の動きの傷害が,痛みや関節可動域制限の原因となる。神経は周囲組織からの外力で受動的に動かされている。神経の動きに関する先行研究は散見されるが,神経とその周囲の筋との関係について検討した報告は無い。そこで本研究は,手指自動屈曲運動時の浅指屈筋及び深指屈筋の筋厚の変化と正中神経の動きの関係について明らかにすることを目的とした。
【方法】
健常成人47名(男性26名/女性21名,年齢36±16歳)を対象とした。超音波画像解析装置で第三指自動屈曲運動時の前腕中央部を撮像し,正中神経の移動距離を測定した。また,正中神経の横断面積及び外周径を測定し,運動前後での変化を検討した。さらに正中神経が浅層方向と深層方向,橈側方向と尺側方向のいずれの方向に移動したかを判定した。各移動方向別に浅指屈筋及び深指屈筋の筋厚変化率を計測し,独立二群のt検定を有意水準5%で検討した。
【結果】
正中神経の移動距離は2.9±1.1mmであった。横断面積は運動前が8.7±4.1mm2,運動時が8.9±4.3mm2で有意な変化はなかった。外周径も運動前が11.5±4.8mm2,運動時が11.8±5.0mm2と有意な変化はなかった。正中神経の移動方向では47名全員が深層方向に移動した。橈側方向へ移動したのは27名,尺側方向へ移動したのは20名であった。浅指屈筋筋厚の変化率は36.9%で増大となり,深指屈筋筋厚は-7.7で減少した。橈側移動群は浅指屈筋の橈側寄りの筋厚変化率が6.8%,尺側寄りの筋厚変化率が20.7%と尺側筋厚が有意に増大し,尺側移動群は浅指屈筋の橈側寄りの筋厚変化率が10.6%,尺側寄りの筋厚変化率が-4%と橈側筋厚が有意に増大した。
【結論】
正中神経は手指屈筋群の活動によって横断方向に押されて移動することによって,過剰な圧迫による神経損傷を防いでいると考えられる。本実験では浅指屈筋が主に活動しており,収縮時に筋厚が増大して正中神経を深層方向へ押し,正中神経の動きを許すように深指屈筋の筋厚が減少したと考えられる。さらに,このような浅指屈筋の収縮による外力から逃れるには,深層方向への移動だけでは不十分で,さらに橈側か尺側のいずれかの方向へ移動していた。その際には浅指屈筋の橈側寄りの筋厚と尺側寄りの筋厚のうち,筋厚の増大が少ない方向へ移動することで圧迫力から逃れ,神経の損傷を防いでいると考えられる。このように正中神経は隣接する筋の収縮によって押し出され,組織の間隙に移動することで神経組織が損傷してしまうような過剰な圧迫とならないように防いでいると考えられる。理学療法を行なう際には,このような神経の機械的機能が症状の一因となっていないかを念頭に置いて,評価と介入を行なうべきであると考えられる。