第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P03

Fri. May 27, 2016 11:50 AM - 12:50 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-NV-03-4] 不全頸髄損傷者のCommunity ambulation自立には下肢筋力に加えて上肢筋力も関連する

長谷川隆史1, 原田康隆1, 江口雅之1, 田中宏太佳2, 内山靖3 (1.中部労災病院中央リハビリテーション部, 2.中部労災病院リハビリテーション科, 3.名古屋大学大学院医学系研究科)

Keywords:不全頸髄損傷, community ambulation, 筋力

【はじめに,目的】

本邦では不全頸髄損傷が増加傾向にあり,ASIA Impairment Scale(AIS)CとDの者では歩行能力を再獲得できた場合でも,屋内歩行は自立するが“地域社会で必要とされる歩行(Community Ambulation:CA)”が自立に至らないことがある。これまでに,CAに関連する身体機能について包括的な検討を行った報告は極めて少ない。本研究の目的は,不全頸髄損傷者のCA自立に関連する身体機能を明らかすることと,CA自立となる歩行能力指標のカットオフ値を得ることとした。




【方法】

A病院に入院中で平地歩行が可能な不全頸髄損傷者(AIS D)40名を対象とした。平均年齢は49.9±13.0歳,受傷後経過日数は139.0±65.9日であった。本研究におけるCA自立は,先行研究を基に当院から500m先のスーパーまで1人で歩いて行けることと定義し,対象者を自立群と非自立群に分類した。身体機能の評価は,ASIA評価基準の下肢筋力スコア(LEMS),上肢筋力スコア(UEMS),触覚スコア(LTS),痛覚スコア(PPS)と,膝関節屈曲筋と足関節底屈筋の合計得点である複合MAS(CMAS)を痙縮の評価として使用した。歩行機能の評価は,10m歩行テストと6分間歩行テスト(6MWT),Walking Index for Spinal Cord Injury II(WISCI)を用いた。10m歩行テストは快適速度(CWS)と最大速度(MWS)を算出した。

CA自立群と非自立群の群間比較には対応のないt検定を用いた。CA自立に関連する因子の検討には,年齢・受傷後経過日数・LEMS・UEMS・LTS・PPS・CMASを独立変数,CA自立の有無を従属変数としたステップワイズ法による多重ロジスティック回帰分析を用いた。CA自立となる歩行能力のカットオフ値はROC曲線を作成し,Youden indexにより算出した。それぞれ有意水準5%で検証した。




【結果】

CA自立群は22名,非自立群は18名であった。群間の比較において,年齢,UEMS,LEMS,CWS,MWS,6MWT,WISCIでは群間に有意な差がみられたが,受傷後経過日数,CMAS,LTS,PPSでは有意な差はみられなかった。多重ロジスティック回帰分析の結果,CA自立に有意に関連する因子としてLEMS(オッズ比:2.03,95%信頼区間:1.20-3.43,p<0.01)とUEMS(オッズ比:1.51,95%信頼区間:1.08-2.10,p<0.05)が抽出された。UEMSのカットオフ値は36.5,LEMSは41.5,CWSは1.00m/s,MWSは1.32m/s,6MWTは472.5m,WISCIは17.5,AUCは0.85~0.96であった。

下肢筋力に加えて上肢筋力が有意に関連したのは,地域生活で必要とされる歩行が自立するためには腕振りや歩行補助具を利用する際の機能が関係するためだと推察する。




【結論】

不全頸髄損傷者のCA自立には,下肢筋力に加えて上肢筋力も有意に関連したが,感覚や痙縮は関連しなかった。さらに,4つの歩行能力指標のカットオフ値に高い信頼性がみられた。本研究で得られた指標は,今後の理学療法の評価,治療介入,ゴール設定等に具体的な指標として適用できる可能性が示唆された。