第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本神経理学療法学会 一般演題ポスター
神経P08

Fri. May 27, 2016 3:20 PM - 4:20 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-NV-08-4] 脳卒中後片麻痺者において立位姿勢の違いと二重課題が姿勢制御に及ぼす影響

サンプルエントロピーを用いた検討

前田絢香1, 大畑光司1, 北谷亮輔1,2, 脇田正徳1,3, 橋口優1,2, 山中奈緒4, 長谷川智子4, 川崎詩歩未1 (1.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 2.日本学術振興会特別研究員, 3.関西医科大学附属枚方病院, 4.京都大学医学部人間健康科学科)

Keywords:脳卒中, 姿勢制御, エントロピー

【はじめに,目的】

脳卒中後片麻痺患者の立位でのバランス機能は日常生活において重要である。これまで二重課題(DT)は閉眼・閉脚立位課題では姿勢制御に影響を与えやすいことが報告されている。またタンデム肢位は前後の姿勢制御が困難になりやすい(Goldie PA, et al.,:1996)と報告されているが,タンデム肢位におけるDTの影響を検討した報告は少ない。近年,姿勢制御を検討するための新たな指標として足圧中心(COP)の動きの規則性をみるサンプルエントロピー(SampEn)が提案されている。脳卒中後片麻痺者において姿勢制御時にDT条件を与えることにより,不規則な運動が増加してSampEnが増加することが報告されている。そこで本研究の目的はSampEnを用いて脳卒中後片麻痺者においてDTとタンデム肢位が姿勢制御に与える影響を検討することとした。

【方法】

対象者は地域在住の脳卒中後片麻痺者14名(年齢59.9±10.7歳,下肢Brunnstrom Recovery StageIII1名,IV10名,V3名,Mini-Mental State Examination 28.7±1.7点)とした。各対象者にはKistler社製床反力計2枚の上で足幅を10cm開いた開脚立位と,足幅を10cm開き,後側下肢の足尖部より10cm前方に踏み出したタンデム肢位を各30秒間保持させた。課題は各立位姿勢において立位保持のみの単純課題(ST)と認知課題を同時に行うDT(無作為な数から7ずつ引き算)を無作為に実施した。床反力計よりCOPと床反力を測定し,COPの実効値面積(RMS),前後左右方向の単位軌跡長,麻痺側下肢への荷重量,前後左右方向のSampEnを算出した。統計処理は,RMSと麻痺側への荷重量,前後左右方向の単位軌跡長とSampEnを立位姿勢(開脚立位・麻痺側・非麻痺側前のタンデム肢位)と課題(ST・DT)の2要因による反復測定二元配置分散分析を用いて比較した。

【結果】

RMSと麻痺側への荷重量では,立位姿勢の三条件間およびDTの有無による変化はなかった。左右方向の単位軌跡長は開脚立位よりもタンデム肢位において増加した。前後方向の単位軌跡長は開脚立位よりもタンデム肢位において増加し,麻痺側前よりも非麻痺側前のタンデム肢位で増加した。SampEnは開脚立位よりもタンデム肢位において左右方向では減少し,前後方向では増加した。

【結論】

本研究では,DTが脳卒中後片麻痺者の姿勢制御に与える影響は見られなかった。RMSに示される重心動揺は立位姿勢の違いによる影響を受けなかった。しかし開脚立位よりもタンデム肢位においてCOPの移動速度は前後左右方向とも増加した。SampEnの結果より,タンデム肢位において左右方向ではCOPの動きは規則的になり,前後方向では不規則となった。この違いは中枢神経系による姿勢制御戦略の違いが生じている可能性を示唆している。またCOPの移動速度では前後方向においてタンデム肢位により違いが生じており,姿勢制御の規則性と肢位の違いによる影響の差との関連について,より詳細な検討が必要であると考えられた。