[P-NV-18-2] 覚醒下手術により一過性に歩行困難となった膠芽腫2症例に対する装具処方を中心とした理学療法アプローチ
Keywords:覚醒下手術, 膠芽腫, 下肢装具
【はじめに,目的】
脳腫瘍摘出に際して機能温存を目的に覚醒下手術を実施するケースが増加している。今回,感覚野あるいは上肢関連運動野近傍における膠芽腫において,覚醒下手術を施行し,術後下肢麻痺を生じたが,最終的に自立歩行まで回復した2症例を経験したので報告する。
【方法】
症例1は右感覚野膠芽腫の30歳男性。術前の神経学的異常所見は上肢感覚障害が主であった。腫瘍深部(内包近傍)の術操作中に左下肢麻痺が出現したため,わずかに腫瘍を残して摘出術終了。術翌日の評価で左下肢麻痺(MMT1-2),痙縮,深部感覚障害,座位保持困難を認めた。術後7週において,股・膝関節筋力はMMT4まで改善したが,足部痙縮,深部感覚障害は改善しなかった。所見から金属支柱付き短下肢装具が妥当と考えたが,症状は緩徐に改善傾向であり,放射線化学療法による腫瘍制御も良好とされ,自宅内での装具着脱を容易にするメリットが大きいと考え,プラスチック短下肢装具を作成した。症例2は左運動野膠芽腫の58歳男性。術前は上肢優位の錐体路障害(近位筋筋力低下)を認め,歩行はわずかにぶん回し様歩行を呈していた。運動野深部内側の術操作中に右下肢麻痺が出現,同様に摘出操作を終了。術翌日の評価では遠位筋優位の右下肢麻痺(MMT0-2)を認めた。術後4週まで下肢筋力は改善せず,プラスチック短下肢装具の適応を考えた。しかし術後5週から下肢筋力が徐々に改善,後療法による腫瘍制御も良好であるため,装具作成せず当院備品装具にて理学療法を継続したところ,術後8週には右下肢MMT4-5レベルまで改善した。復職にむけて持久力の回復が達成できていないため,軟性装具が処方された。
【結果】
症例1の理学療法は痙縮筋へのストレッチやバランス機能練習,早期からの装具歩行練習等を実施した。装具採型後,下肢筋力はMMT4以上には改善せず,足部痙縮も増悪したが,短下肢装具の修正を行い自立歩行を獲得し,術後13週にて自宅退院となった。症例2の理学療法は通常の運動療法に加え電気刺激療法やペダリング運動などを実施した。術後9週にて自宅内は装具なし歩行自立となり自宅退院した。
【結論】
歩行自立を達成した要因として,下肢関連運動野に局在する腫瘍は摘出されていなかったことが挙げられる。本症例における下肢麻痺は後療法中に経時的に改善したことから,手術操作に伴う浮腫や還流障害等が原因である一時的な症状と推察される。一般に覚醒下手術において,麻痺等の異常所見が出現した際には,それ以上の手術操作は重篤な後遺障害を引き起こすとされている。一方で,浮腫や還流障害が原因であれば,時間はかかるかもしれないが症状が改善する可能性が残される。本症例から,覚醒下手術中に,適切な神経学的評価により摘出操作を終了した場合は,神経症状が経過中に改善し,症状に適合する装具が劇的に変化することを念頭に置いて理学療法を進めていく必要性が示唆された。
脳腫瘍摘出に際して機能温存を目的に覚醒下手術を実施するケースが増加している。今回,感覚野あるいは上肢関連運動野近傍における膠芽腫において,覚醒下手術を施行し,術後下肢麻痺を生じたが,最終的に自立歩行まで回復した2症例を経験したので報告する。
【方法】
症例1は右感覚野膠芽腫の30歳男性。術前の神経学的異常所見は上肢感覚障害が主であった。腫瘍深部(内包近傍)の術操作中に左下肢麻痺が出現したため,わずかに腫瘍を残して摘出術終了。術翌日の評価で左下肢麻痺(MMT1-2),痙縮,深部感覚障害,座位保持困難を認めた。術後7週において,股・膝関節筋力はMMT4まで改善したが,足部痙縮,深部感覚障害は改善しなかった。所見から金属支柱付き短下肢装具が妥当と考えたが,症状は緩徐に改善傾向であり,放射線化学療法による腫瘍制御も良好とされ,自宅内での装具着脱を容易にするメリットが大きいと考え,プラスチック短下肢装具を作成した。症例2は左運動野膠芽腫の58歳男性。術前は上肢優位の錐体路障害(近位筋筋力低下)を認め,歩行はわずかにぶん回し様歩行を呈していた。運動野深部内側の術操作中に右下肢麻痺が出現,同様に摘出操作を終了。術翌日の評価では遠位筋優位の右下肢麻痺(MMT0-2)を認めた。術後4週まで下肢筋力は改善せず,プラスチック短下肢装具の適応を考えた。しかし術後5週から下肢筋力が徐々に改善,後療法による腫瘍制御も良好であるため,装具作成せず当院備品装具にて理学療法を継続したところ,術後8週には右下肢MMT4-5レベルまで改善した。復職にむけて持久力の回復が達成できていないため,軟性装具が処方された。
【結果】
症例1の理学療法は痙縮筋へのストレッチやバランス機能練習,早期からの装具歩行練習等を実施した。装具採型後,下肢筋力はMMT4以上には改善せず,足部痙縮も増悪したが,短下肢装具の修正を行い自立歩行を獲得し,術後13週にて自宅退院となった。症例2の理学療法は通常の運動療法に加え電気刺激療法やペダリング運動などを実施した。術後9週にて自宅内は装具なし歩行自立となり自宅退院した。
【結論】
歩行自立を達成した要因として,下肢関連運動野に局在する腫瘍は摘出されていなかったことが挙げられる。本症例における下肢麻痺は後療法中に経時的に改善したことから,手術操作に伴う浮腫や還流障害等が原因である一時的な症状と推察される。一般に覚醒下手術において,麻痺等の異常所見が出現した際には,それ以上の手術操作は重篤な後遺障害を引き起こすとされている。一方で,浮腫や還流障害が原因であれば,時間はかかるかもしれないが症状が改善する可能性が残される。本症例から,覚醒下手術中に,適切な神経学的評価により摘出操作を終了した場合は,神経症状が経過中に改善し,症状に適合する装具が劇的に変化することを念頭に置いて理学療法を進めていく必要性が示唆された。