第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本呼吸理学療法学会 一般演題ポスター
呼吸P04

Fri. May 27, 2016 3:20 PM - 4:20 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-RS-04-4] 脳死肺移植術後患者の身体機能やADL能力の経時的変化

中尾周平1,2, 長谷場純仁1,2, 榊間春利2, 吉田輝1 (1.鹿児島大学医学部・歯学部附属病院リハビリテーション部, 2.鹿児島大学医学部保健学科)

Keywords:脳死肺移植術, 身体機能, ADL

【はじめに,目的】脳死肺移植術後の患者(移植患者)に対する理学療法について先行研究では,肺移植によって肺機能は改善するが,身体機能は移植前の状態であるため,低肺機能の影響により低下した身体機能やADL能力の向上を図り,社会復帰を目指すことが目標であり,きわめて重要であると述べられている。しかし,近年肺移植件数が大幅に増えつつあるが,移植患者の長期的な身体機能に関するデータはまだまだ不足している。今回,我々は特発性肺高血圧症に対して脳死肺移植術を施行された患者に対する理学療法を経験する機会を得た。本患者の身体機能およびADL能力の向上,さらには社会復帰を目標に,術後3ヶ月より理学療法を入院および外来で長期間にわたり継続して実施し,その過程において身体機能やADL能力の経時的変化を調査し,その特性について分析したので,その結果を報告する。

【方法】対象は20歳代男性。7歳時に特発性肺高血圧症の診断を受け,翌年よりエポプロステノールの投与が開始された。10歳時に母親より右生体部分肺移植術,今回,両側脳死肺移植術を施行された。術後3ヶ月経過して,理学療法継続および在宅でのセルフトレーニング指導目的に手術施設から地元である当院へ入院となった。既往にステロイド性の糖尿病や腎機能低下があり,これらが悪化をする度に入退院を繰り返していた。理学療法は,四肢の筋力増強運動・呼吸筋リラクゼーション・呼吸筋筋力増強運動・歩行練習・歩行時の歩行速度や呼吸法の指導・エルゴメータを実施した。さらに,在宅でのセルフトレーニングを指導して実施を促していた。評価として,握力・膝伸展筋力・呼吸筋力(最大吸気圧と最大呼気圧)・NRADL・6分間歩行テストを可能な限り1ヶ月に1度計測を実施した。

【結果】症例に対する評価結果の推移を調査すると,握力と膝伸展筋力は,移植術後6ー7ヶ月でピークに達していた。また,呼吸筋力においては,最大吸気圧は移植術後7ヶ月,最大呼気圧は9ヶ月でそれぞれピークに達していた。また,NRADLは5ヶ月でピークとなり,更に6分間歩行距離は7ヶ月でピークに達していた。それぞれの項目はピークに達した後,術後10ヶ月の時点でほぼ維持されていた。

【結論】先行研究と同様に,各筋力や6分間歩行距離は概ね6―7ヶ月でピークに達することが分かった。また,呼吸筋力は他の筋力改善のスピードと異なり,時間を要することから,より長期的にトレーニングを実施する必要性が示唆された。更に,ADLは今回の評価中,一番ピークに達する時間が短かった。ADLに関しては,術前の身体活動が大きく影響すると考えられ,年齢的にも若く,手術や術後管理によるディコンデショニングの影響をあまり受けなかったものと考えた。これらの結果は,移植術後の理学療法の重要性を裏付けるものであり,今後も調査を継続して,より長期の身体活動やADLの推移を分析していきたい。