第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本呼吸理学療法学会 一般演題ポスター
呼吸P07

Sat. May 28, 2016 2:50 PM - 3:50 PM 第11会場 (産業振興センター 2階 セミナールームA)

[P-RS-07-1] ICU-acquired weaknessを合併した人工呼吸器離脱後患者の機能回復を追った一例

小岩雄大1, 小山真吾1, 堅田紘頌1, 横山仁志1, 山徳雅人2 (1.聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーション部, 2.聖マリアンナ医科大学病院神経内科)

Keywords:ICU-AW, 運動機能, 身体活動量

【はじめに,目的】

ICU-acquired weakness(ICU-AW)はICU管理下の重症疾患に関連して生じる骨格筋機能低下の総称であり,多臓器不全,高血糖,不活動,薬物療法等に起因する。ICU-AW合併による弊害は人工呼吸器離脱の遅延,死亡率増加等が報告されており,重度の筋力低下から機能予後にも悪影響を及ぼす。この疾患概念は近年提唱されたことから機能回復に関する報告は少なく,理学療法に伴う客観的指標を用いた運動機能,日常生活活動(ADL)等の経過を詳細に評価したものはない。そこでICU-AWを合併した人工呼吸器離脱後患者の機能回復の経過を追うことができたので報告する。

【方法】

症例は糖尿病ケトアシドーシスによる意識障害を基盤とし敗血症,呼吸窮迫症候群のため人工呼吸器管理となった49歳男性である。第4病日より呼吸理学療法・早期離床を中心としたモビライゼーションを開始し,第8病日に抜管となった。その後,遷延する重度四肢筋力低下に対して神経伝導速度検査が施行されcritical illness polyneuropathyと診断され,第56病日に自宅退院に至った。その間の運動機能,ADLの経過は,Medical Research Council score(MRCscore)[点],握力[kgf],等尺性膝伸展筋力体重比[kgf/kg],片脚立位時間[秒],6分間歩行距離[m],Functional Independence Measure運動項目合計点(M-FIM)[点]で評価し,各週の変化率及び週平均を算出した。同時にエネルギー指標[kcal]と身体活動量[歩/日]の経過も追い,エネルギー指標はエネルギー摂取量とHarris-Benedictの式から推定されたエネルギー消費量の差から算出し,身体活動量は病棟内歩行が可能となった時点から測定した。

【結果】

入院1週目では著明な筋力低下を呈し,ADLは全介助であった(MRCscore;20点,M-FIM;15点)。2週目から退院にかけてMRCscore(32→53点;9%/週),握力(7.3→18.9kgf;19%/週),等尺性膝伸展筋力体重比(0.16→0.43kgf/kg;19%/週),片脚立位時間(不可→15.77秒;88%/週),6分間歩行距離(308→467m;15%/週),M-FIM(15→83点;39%/週)と各指標で改善を認め,エネルギー摂取量が推定エネルギー消費量を満たない5週目までの期間(不足エネルギー量:50-300kcal)も各指標の改善は確認された。また,病棟内歩行が開始された4週目から測定した身体活動量も退院に向け増加し(387→3925歩;61%/週),各指標の変化率も最大値を示した。(握力;51%,等尺性膝伸展筋力;29%,M-FIM;95%)。

【結論】

ICU-AWを合併した人工呼吸器離脱後患者に対し客観的指標を用いて機能回復の経過を把握することが効果判定と理学療法処方の再考の一助となった。本症例を通じて身体活動量の増加と運動機能やADLの改善に何らかの関連が示唆され,病棟との連携や補助具の選択等,適切な環境設定によって早期から身体活動量の増加を図ることが機能回復に寄与することが推察された。また,エネルギー摂取量が満たない時期でも詳細な筋力評価のもとで積極的な理学療法を実施することの重要性が認識された。