[P-YB-02-5] がん悪液質が進行肺がんを有する高齢者の予後,在院日数と医療費に及ぼす影響について
Keywords:高齢者進行肺がん, 悪液質, 医療費
【はじめに,目的】
我が国の全悪性腫瘍の中で肺癌の死亡率は最も高いが,抗がん治療の進歩により生存期間は延長しているため,今後ますます「肺がんと共に生きる高齢者」は増加すると予想される。しかし切除不能な進行肺癌を有する高齢者の診断時からの経過報告は少ない。本研究の目的は切除不能進行非小細胞肺癌に対して初回治療を行う高齢者において,治療前の悪液質の有無がその後の入院期間,介護不要期間,生存,医療費に及ぼす影響について検討することである。
【方法】
本試験は当施設の倫理委員会で承認を受け実施された前向き観察研究である(UMIN登録番号000009768)。病理学的に証明された進行非小細胞肺癌(3期,4期又は術後再発)を有し初回治療として放射線または化学療法を予定している70歳以上の高齢者のうち,身体機能評価の危険因子(ECOG-PS3以上,活動性の心疾患,筋骨格系ならびに神経系の障害など)を有さない患者を登録した。日常生活動作はBarthel Index(BI)で,がん悪液質はFearonらの国際基準(Lancet Oncol,2011年)に従って診断した。入院期間は観察期間中の予定入院,緊急入院,他院でのすべての入院日数を含み,医療費は差額ベッド代を除くすべてのがん関連医療費を抽出した。入院日数ならびに医療費のMean cumulative functionを算出し,試験登録から1年時点の一人当たり累積入院日数と累積医療費を悪液質群と非悪液質群で比較した。統計解析はJMP v12.0(SAS institute,US)を用いた。また,BIがベースラインから10点以上低下するまでの期間を介護不要生存期間(Disability-free survival,DFS)と定義し,Kaplan-Meier法を用いて算出した。
【結果】
2013年1月より2014年11月までに予定された60名が登録され,女性17名,男性43名であった。年齢は76(70-89)才,ECOG-PS 0-1-2はそれぞれ23-34-3(名),悪液質は35名(58.3%)に認め,BIは全例で100点であった。組織型は腺癌36名,扁平上皮癌22名,その他2名であり,21名が放射線化学療法,9名が放射線治療,30名が化学療法を受けた。登録された60名を悪液質群35名,非悪液質群25名に分けると,悪液質群は有意に介護を必要とするまでの期間が短く(DFS 9.4ケ月vs 21.2ケ月),生存が短く(10.8ケ月vs23.2ケ月),初年度の累積入院日数が長く(71 vs 39日/年),医療費もかかっていた(400 vs 250万円/年)。
【結論】
進行非小細胞肺癌を有する高齢者は,診断時にすでに約6割が悪液質であり,悪液質群は非悪液質群に比し,在院日数が長く,介護を必要とするまでの期間および生存期間が短く,医療費もかかることが示唆された。がん治療費の約7割は入院医療費に費やされており,適切な抗がん治療に加え,栄養や理学療法によって栄養状態や身体機能の維持改善が図れ,高齢肺癌患者の在院日数を短縮することができれば,医療費の削減にも貢献できる可能性がある。
我が国の全悪性腫瘍の中で肺癌の死亡率は最も高いが,抗がん治療の進歩により生存期間は延長しているため,今後ますます「肺がんと共に生きる高齢者」は増加すると予想される。しかし切除不能な進行肺癌を有する高齢者の診断時からの経過報告は少ない。本研究の目的は切除不能進行非小細胞肺癌に対して初回治療を行う高齢者において,治療前の悪液質の有無がその後の入院期間,介護不要期間,生存,医療費に及ぼす影響について検討することである。
【方法】
本試験は当施設の倫理委員会で承認を受け実施された前向き観察研究である(UMIN登録番号000009768)。病理学的に証明された進行非小細胞肺癌(3期,4期又は術後再発)を有し初回治療として放射線または化学療法を予定している70歳以上の高齢者のうち,身体機能評価の危険因子(ECOG-PS3以上,活動性の心疾患,筋骨格系ならびに神経系の障害など)を有さない患者を登録した。日常生活動作はBarthel Index(BI)で,がん悪液質はFearonらの国際基準(Lancet Oncol,2011年)に従って診断した。入院期間は観察期間中の予定入院,緊急入院,他院でのすべての入院日数を含み,医療費は差額ベッド代を除くすべてのがん関連医療費を抽出した。入院日数ならびに医療費のMean cumulative functionを算出し,試験登録から1年時点の一人当たり累積入院日数と累積医療費を悪液質群と非悪液質群で比較した。統計解析はJMP v12.0(SAS institute,US)を用いた。また,BIがベースラインから10点以上低下するまでの期間を介護不要生存期間(Disability-free survival,DFS)と定義し,Kaplan-Meier法を用いて算出した。
【結果】
2013年1月より2014年11月までに予定された60名が登録され,女性17名,男性43名であった。年齢は76(70-89)才,ECOG-PS 0-1-2はそれぞれ23-34-3(名),悪液質は35名(58.3%)に認め,BIは全例で100点であった。組織型は腺癌36名,扁平上皮癌22名,その他2名であり,21名が放射線化学療法,9名が放射線治療,30名が化学療法を受けた。登録された60名を悪液質群35名,非悪液質群25名に分けると,悪液質群は有意に介護を必要とするまでの期間が短く(DFS 9.4ケ月vs 21.2ケ月),生存が短く(10.8ケ月vs23.2ケ月),初年度の累積入院日数が長く(71 vs 39日/年),医療費もかかっていた(400 vs 250万円/年)。
【結論】
進行非小細胞肺癌を有する高齢者は,診断時にすでに約6割が悪液質であり,悪液質群は非悪液質群に比し,在院日数が長く,介護を必要とするまでの期間および生存期間が短く,医療費もかかることが示唆された。がん治療費の約7割は入院医療費に費やされており,適切な抗がん治療に加え,栄養や理学療法によって栄養状態や身体機能の維持改善が図れ,高齢肺癌患者の在院日数を短縮することができれば,医療費の削減にも貢献できる可能性がある。