[P-YB-19-3] 健常高齢者における後方歩行の特性と運動機能および注意機能との関連
キーワード:後方歩行, 運動機能, 地域在住高齢者
【はじめに,目的】
要介護となる要因として骨折の比率は非常に高く,高齢者の骨折に代表される大腿骨頸部骨折や腰椎圧迫骨折は後方への転倒によるものが多いことから,後方への動作能力を早期から把握することは介護予防を考える上で重要である。先行研究において,要介護を含む虚弱な高齢者の後方歩行の速度の遅さや歩行周期時間の変動性は転倒歴に有意に関連したと報告されている。後方歩行の特徴として日常的に行われる頻度の少ない動作であることや,進行方向に対する視覚的情報が得られにくいこと,前方歩行とは異なった姿勢制御を必要とすることから,より高い運動機能や注意機能を要する難度の高い動作であると考えられる。そのため後方歩行の速度や変動性は自立度が高い健常高齢者においても身体機能の低下を反映しやすい評価指標となるのではないかと考えられる。本研究の目的は健常高齢者における運動機能及び注意機能と後方歩行の速度および変動性との関連性を明らかにすることとした。
【方法】
対象は要介護認定を受けていない健常高齢者39名。除外基準は歩行時に疼痛がある者,6か月以内に骨関節疾患,神経系疾患の既往歴がある者とした。歩行速度は10m歩行所要時間から算出し,1歩行周期時間の変動率は踵につけた小型無線モーションレコーダー(MVP-RF8)により得られた加速度波形から10m歩行中の歩行周期を同定し,安定した6歩行周期を解析区間とした。歩行条件は快適な速度による前方歩行と後方歩行とした。身体機能評価では筋機能として骨格筋量(InBody430),握力,chair-stand test(CS-30),バランス機能評価として開眼と閉眼立位時の重心動揺(外周面積),片足立ち時間,Functional Reach Test(FRT),機能的移動能力評価としてTimed Up and Go Test(TUG),注意機能評価としてTrail Making Test A(TMT-A)及びTrail Making Test B(TMT-B)を測定した。前方歩行と後方歩行の歩行速度及び変動係数の比較には対応のあるT検定,各測定項目間の関連性の検討においてはピアソンの相関係数を用いて検討した。
【結果】
歩行速度について後方歩行は前方歩行と比較し有意に遅く,歩行周期の変動率において後方歩行は前方歩行と比較し有意に大きい結果となった。また前方歩行速度と片足立ち時間,CS-30,閉眼時外周面積,後方速度と片足立ち時間,握力,CS-30,FRT,閉眼外周面積に有意な相関を認めた。また前方歩行の変動率とFRTに有意な相関を認めたものの,その他の項目間に有意な相関は認めなかった。
【結論】
健常高齢者において後方歩行は前方歩行よりも速度が遅く,変動性が大きい動作であり,健常高齢者の後方歩行の速度の遅さは静的バランス能力や動的バランス能力の低さ,下肢筋力などの運動機能の低さと関連した指標である可能性が示された。後方歩行の評価は介護予防の取り組みにおける高齢者の後方への動作能力を早期に把握するための一助となると考えられる。
要介護となる要因として骨折の比率は非常に高く,高齢者の骨折に代表される大腿骨頸部骨折や腰椎圧迫骨折は後方への転倒によるものが多いことから,後方への動作能力を早期から把握することは介護予防を考える上で重要である。先行研究において,要介護を含む虚弱な高齢者の後方歩行の速度の遅さや歩行周期時間の変動性は転倒歴に有意に関連したと報告されている。後方歩行の特徴として日常的に行われる頻度の少ない動作であることや,進行方向に対する視覚的情報が得られにくいこと,前方歩行とは異なった姿勢制御を必要とすることから,より高い運動機能や注意機能を要する難度の高い動作であると考えられる。そのため後方歩行の速度や変動性は自立度が高い健常高齢者においても身体機能の低下を反映しやすい評価指標となるのではないかと考えられる。本研究の目的は健常高齢者における運動機能及び注意機能と後方歩行の速度および変動性との関連性を明らかにすることとした。
【方法】
対象は要介護認定を受けていない健常高齢者39名。除外基準は歩行時に疼痛がある者,6か月以内に骨関節疾患,神経系疾患の既往歴がある者とした。歩行速度は10m歩行所要時間から算出し,1歩行周期時間の変動率は踵につけた小型無線モーションレコーダー(MVP-RF8)により得られた加速度波形から10m歩行中の歩行周期を同定し,安定した6歩行周期を解析区間とした。歩行条件は快適な速度による前方歩行と後方歩行とした。身体機能評価では筋機能として骨格筋量(InBody430),握力,chair-stand test(CS-30),バランス機能評価として開眼と閉眼立位時の重心動揺(外周面積),片足立ち時間,Functional Reach Test(FRT),機能的移動能力評価としてTimed Up and Go Test(TUG),注意機能評価としてTrail Making Test A(TMT-A)及びTrail Making Test B(TMT-B)を測定した。前方歩行と後方歩行の歩行速度及び変動係数の比較には対応のあるT検定,各測定項目間の関連性の検討においてはピアソンの相関係数を用いて検討した。
【結果】
歩行速度について後方歩行は前方歩行と比較し有意に遅く,歩行周期の変動率において後方歩行は前方歩行と比較し有意に大きい結果となった。また前方歩行速度と片足立ち時間,CS-30,閉眼時外周面積,後方速度と片足立ち時間,握力,CS-30,FRT,閉眼外周面積に有意な相関を認めた。また前方歩行の変動率とFRTに有意な相関を認めたものの,その他の項目間に有意な相関は認めなかった。
【結論】
健常高齢者において後方歩行は前方歩行よりも速度が遅く,変動性が大きい動作であり,健常高齢者の後方歩行の速度の遅さは静的バランス能力や動的バランス能力の低さ,下肢筋力などの運動機能の低さと関連した指標である可能性が示された。後方歩行の評価は介護予防の取り組みにおける高齢者の後方への動作能力を早期に把握するための一助となると考えられる。