[MT-2-1] 基礎研究からみたエビデンス 理学療法におけるこれからの基礎研究のあり方
基礎研究からみたエビデンスの話をせよと言われたが,難題である。その理由は,基礎研究には「いわゆる」エビデンスが無いからである。「いわゆる」としたのは,医療分野で使われるエビデンスは,単なる根拠の意味ではなく,ある病気や症状に対してある治療法が有効であることが,人を対象とした臨床研究により立証された結果を指すためである。医学全体にいえることであるが,プレEBMの時代(1980年くらいまで)であれば,基礎医学的知見をそのまま臨床医学に活かすことができた。理学療法においても同様の事例が多くある。例えば,温熱療法による軟部組織の伸張性向上の根拠はラットの尾を温めた方がよく伸びたとする実験結果であるし,CPMはSalterらのウサギの軟骨損傷に対する一連の実験結果が元となり開発された。残念ながら,これらはいずれも,現時点ではエビデンスは無いとされている。現在では,基礎研究での発見は直接臨床現場にはもっていけず,そのためには幾つかのハードルを乗り越えなければならない。しかし,基礎研究の価値が損なわれているわけではなく,基礎医学はほとんどすべての臨床医学の源泉であり,基礎研究と臨床研究はともに欠かすことのできない言わば両輪である。また基礎研究と臨床を結ぶトランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)の必要性も盛んに叫ばれているが,最近話題のゲノム編集技術のように,基礎研究の成果が急速に臨床応用に結びつく例もある。理学療法における基礎研究は,①臨床現場で行っていることの「いわゆる」エビデンスでは無い根拠を示すもの,②理学療法の対象となる体性器官及び組織の構造変化と機能変調/不全の発症メカニズムを明らかにするもの,③新しい医療を創出するものに大別できると考える。シンポジウムでは,基礎研究からみたエビデンスを踏まえたうえで,運動器理学療法における基礎研究のあり方と将来の展望について考えてみたい。